不良リーダーの懸命なる愛

恋しい

その翌日ーー





「では、開始して下さい。」



その先生の一声で、用紙をめくる音が教室に響き渡った…。


今日は現代文に数学、そして英語だった。



英語か…。



結局、あまり勉強しなかったな……。



今回は範囲は広くないものの、中間の範囲もかなり含まれていて、応用問題も多数あった。


シャーペンがやけに重く感じて、みんなよりもワンテンポ遅く名前を書き始めた。


そして問題に目を通していくと……。




あ。



ここ、霧島くんと一緒に勉強したところだ…。






『ココは、関係代名詞だから that の使い方も大事なんだ。』


『文章の全体を見ていくと先行詞が “人と人以外” だろ?そういう時は関係代名詞thatを用いて……、』





そうだったね…。





あの時のことがじんわりと私の中で蘇ってくる…。


すると私の頬も自然と緩んだ。


空欄の部分をそれにならって埋めていく。



上手だったよね、霧島くんの教え方。


そして優しかったな。


あ、でも結構スパルタだったから案外そうでもないのかも!



そう思ったら、クスッと心の中で笑ってしまった。


容赦無くどんどん問題を出してきて、でもそんな霧島くんも必死そうで…。



私のために、必死に……。



そういえば、霧島くんと並んで勉強してた時、よく肘がぶつかったな。






『あ!ごごごめんなさい!!』


『ん?あぁ、また当たっちまったか。悪い!』


『い、いえ!……あれ?霧島くんって左利き??』


『そうだけど、………今まで気がつかなかったのか?開始してから、もう30分は経つんだけど?』


『うっ…。集中してて、気づきませんでした……。あ!じゃあ場所交換しませんか?その方が肘が当たらないでやりやすい…』


『いいの?もっと距離近くなるけど。』


『え?!!きょ、距離って!?』


『最近右手が言うこときかねんだよな~。だから咲希に何するかわかんないけど。』


『へ!!?』


『まぁ、咲希がそんなに俺に寄り添いたいならやむを得ない…』


『け、結構ですっ!!!や、や、やっぱり今のままでいいです!!』


『プククッ。声でかすぎ…。』


『ハッ!!し、しまった!』


『ブハハハハッ!』


『ちょ!?き、霧島くん!!?』







ポタッ。



問題用紙に一雫落ち、文字が滲んでゆく……。


そして、また一粒と紙に落ちては文字を滲ませていき、
ペンを持つ手は微かに震えている。




霧島くん…!




涙の中、心の中で彼の名前を呼んだ。




さよならなんて……………………




やっぱり私には無理みたいっ!!




もう一度。


もう一度だけ。



私の目の前で笑ってほしいよ…。




もしかしたら私が霧島くんに惹かれたのは、優しさや人柄よりも、
彼のその笑顔だったのかもしれない……。



そしてそれを一番私は守りたかったのだと、この時、初めて気がついたのだ。




霧島くん。


あなたの笑顔をもう一度…。
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