現代のシンデレラになる方法


それから、何人か急患が来たがそれ程慌ただしくなることもなく夜が明けていった。
入院患者の中でも状態を悪くして相談されたが、口頭指示を出すだけで特に緊急に何をするということもなく久しぶりに平穏な当直だった。

背伸びをしながら大きなあくびをすると、けだるげに白衣に両手を突っ込む。

さっさと帰ろうと医局を出て更衣室へ向かおうとしたところ。
そこに待ち構えていたのは、あの事務員の女の子だった。


あぁ、そういえば昨日発作起こしてたっけ。

俺の中では、そんなうっすらとした記憶しか残ってなかった。

「あ、あの……、昨日は、ありがとうございました……っ!」

そう言って彼女は深々とお辞儀する。

「軽く済んで良かったな」

「は、はい……っ」


あぁ、確かに長い前髪と顔が俯き加減なせいで顔がよく見えない。
前に看護師が言っていたことを思い出す。

昨日苦しんでる中ちらっと顔を見たが、別に普通だった。
そんな隠す程のコンプレックスがあるようには思えないけど。


「てか、前髪切ったら?」

そう言って屈むと、彼女の長い前髪を横に流して顔を出させた。
俺の思わぬ行動に余程びっくりしたのか、彼女は顔を真っ赤にして分りやすい程動揺する。

「え、え、え、あ、あの、……っ!」

見るからに、男に免疫なさそうだもんな。
じっと見つめると、眉を八の字にし目線を下の方で泳がせる。

「顔あげなよ、ほら、目見てごらん」

そう言うとちらっと俺を見上げた。
本当何秒もない一瞬だけど。

「自信もちなよ、あんたそこそこ可愛いと思うけど」


そう言って彼女の前髪を解放する。

まだ、口があわあわ言ってて思わず笑ってしまう。

変な子だなー。

じゃ、と手を振って更衣室へ向かう。




翌日、書類を胸元に両手で抱えパタパタと走る彼女の姿があった。

「あ、前髪」

ちゃんと短くなってるけど、なんか不揃い。
自分で切ったのだろうか。

思わず1人で吹き出してしまう。

だけど自分が提案しただけあって、ちょっと罪悪感。

すると彼女は俺に気付いて軽く会釈した。
へーこの距離だったら、ちゃんと目合わせられるんだ。




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