現代のシンデレラになる方法


心配そうにその姿を見送ると、テーブルに残っていたナースが淡々と言った。

「先生、気にしなくていいですよ」

「え?」

彼女は俺と同じ年に入職した、西原綾子だ。
職種は違うが、研修や入職式を共にした同期にあたる。

入職した頃、よく同期の医者仲間が、同期女子で1番綺麗だと騒いでいたのをよく覚えている。

明るくさばさばした性格で、まだ他のナースより話しやすい。
付き合いも長いことから友達感覚で話せる貴重なナースだった。


「あの子、先生に送って欲しくて嘘ついてただけなんで」

「そうなのか?」

「だって既成事実作っちゃえばこっちのもんじゃないですか?」

既成事実って……。
何する気だったんだよ、こえーな。


そうこうしてるうちに、すでにモスコミュールは相澤の手元に来ていた。

遅かったか。
まぁ、しょうがない。
一杯位なら大丈夫だろう。


酔ったフリをしたナースが帰らされ、空いた俺の隣の席にその西原が座る。


「あの子、そんなに気になるんですか?」

「あ、あぁ、いや別に」

「でも、さっきから、あの子ばかり見てるようですけど。あの子が毎日お弁当作ってきてくれてる子ですよね?」

「やっぱ、それ結構広まってんだな」

「まぁ外科中心にですけど。付き合ってる訳じゃないんですか?」

「あぁ、付き合ってないよ」


聞かれることに素直に答えた。


話している間に、相澤のグラスがほとんど空に近くなっているのが目に入る。

すると、もう次のドリンクがやってきた。

いつの間に飲ませたんだよ。

まだ量飲んでないが、ペース早すぎんだろ。

飲み慣れてないのに、何調子に乗ってんだ。

「あの子可愛くなりましたね」

「そうか?」

「はい、好きな人でもいるんでしょうかね?」

「好きな人か、あいつそういうの疎そうだからどうだろうな」

話しながらも、相澤と男の動向に目が離せない。

すると、相澤が唐突に席を立った。
その瞬間、隣の男も立ち上がる。
なぜか手には相澤のバッグと、自分のバッグを手にしていた。

にやけながら仲間の奴らに手を振って、相澤の後を追っていく。

いよいよ動いた男に、俺も席を立つ。

「俺、先に帰るわ。また病院でな」

そう言った瞬間、えーっ、と沸き立つ声。引き止められたが、きっぱり断って奴らを追った。





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