現代のシンデレラになる方法
先生を待つ間、準備を始める。
「尾川さん、救急カートとシリンジポンプ持って来て」
「渡辺さんは呼吸器とモニターお願い」
はい、と駆け出す2人の後輩。
私は患者さんを前に、吸引チューブを持ちながら焦っていた。
メンバーは2年目の尾川さんと、まだ夜勤デビューして間もない新人の渡辺さんだ。
私だっていつもはリーダーから指示をもらって動くことが多くて、こういったリーダー的な立ち回りは初めてに近い。
不安要素を挙げたらきりがない。
今は患者さんを助けることだけを考えよう。
先生が到着すると、すかさず私達に指示を出す。
「ディプリバン持続10で繋げて」
「はい」
指示通り、鎮静剤の薬液を吸ってシリンジポンプに接続していく。
手の止まる2人に即座に指示を出す。
「尾川さん呼吸器起動させておいて、あと挿管の準備しておいてね」
「渡辺さんは時系列で記録をお願い」
2人から慌てたように返事が返ってくる。
2人とも余裕のない表情。
いっぱいいっぱいなのは目に見えて分かった。
私がここでしっかりしなきゃどうするの。
私が一番先輩なんだから。
落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ。
震える手に力を込めて、大丈夫、とそう自分に言い聞かせる。
先生が鎮静剤の流量を調節して患者さんの鎮静を促す。
患者さんが完全に脱力しきったのを確認して、いよいよ挿管が始まった。
「先生チューブのサイズどうしますか?」
「7.5で」
「はい」
先生に言われた通り、袋からチューブを取り出し潤滑剤をつけて準備する。
しかし、カートの上には色々物品が足りない。
挿管の準備出しといてといったのに。
だけど今注意して教えている余裕もない。
救急カートから足りない物品を出す私に、申し訳なさそうに尾川さんが謝った。
「す、すいません……っ」
「大丈夫、今度から気を付ければいいからね」