現代のシンデレラになる方法




部屋から逃げるように飛び出す。

「相澤!」

先生はそう呼び止めたが、それに応じる訳にはいかない。

そのまま走り出すと、先生も後を追ってきた。

だめだ、今捕まっては……っ。


「相澤、待て」

声を振り切って、必死に外へ出ようと真っ暗になった院内の廊下を走る。


「待てってば」

先生の声を無視して、外へ出ると中庭を抜けて行く。

こんなに走ったの何年ぶりだろう。

小さい頃でも発作が怖くて、こんなに走れたことがなかった。


「ごほっ、ごほ……っ」

息が苦しくなって、咳が出てきた。

発作の前兆だと分かっていても、足は止められない。


「バカ、咳出てきただろうが。止まれ」

いやだ、今先生と会ったら、

会ったら、きっと……


もう、自分の気持ちを抑えられなくなる……。



懸命に先生から逃げるも、ついに腕を捕まれてしまった。


「ほら深呼吸して」

そう、促され、泣きながら呼吸を整える。先生の顔は見れずそっぽを向いたまま。


「……なんで、そうまで避けるんだよ。あの日、そんなに俺のこと軽蔑したのか?」

違う、違う。
ぶんぶんと顔を横に振る。

どうしても先生が好きだから、離れたいのだ。
これ以上は一緒にいたらダメだから。

……自分は先生にふさわしくないから。



「相澤、俺はお前が好きだ。お前はどうなんだ?」

ぎゅっと胸が鷲掴みにされるかのようだった。


「す、すいません、私なんかが先生とは……っ」

「それはもう聞き飽きた、お前の気持ちが知りたいんだ」

涙が溢れる。

観念して、自分の想いを吐き出した。


「好きです……っ、大好きです……っ」

そう言うと、先生にぎゅっと抱きしめられた。

私は慌てて付け加えて、涙ながらに訴える。

「でもっ、先生が大好きだからこそ、私じゃダメなんです……っ。私じゃふさわしくないから、私、自分のことが嫌いなんです、だから先生とは……っ!」

私の言葉を遮るように、先生の唇で私の口を塞がれた。

一瞬のできごとに、軽くパニックになりながら先生の胸を押して抵抗する。

それに気付いた先生が私の唇を離すと、私を見つめながら言った。


「お前の大好きな俺が好きだって言ってるんだ。それでも自分が嫌いだっていうのか?」

「でも、」

「なんだまた塞がれたいのか」

慌てて両手で自分の口を覆うと、今までずっと難しい顔をしていた先生の表情が緩んだ。

ふっと、微笑む先生。

「……俺は、お前の気持ちを知ったからには、もう手離したくない」

もう逃がさないと言ったように、私の腕は掴まれたまま。

私にはそんな言葉もったいなくて、でも嬉しくてたまらなくて。

溢れ出る涙を止められない。

「い、いいんでしょうか、私で」

震えた小さな声でそう言うと、また先生に抱き寄せられた。

「お前がいいんだ」




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