彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
「……正直さっきは助かった。いつも悪いな」
俺の言葉に、南の顔がぱっと花咲くように明るくなる。
「花嶋先輩にそう言ってもらえて嬉しいな。けど。あたしはそろそろご褒美が欲しいかな?……今度ごはん、連れて行ってもらえませんか?」
---------落ち着け落ち着け。
美女からのモーションに緊張するな、浮かれるな。ドジを踏むぞ、間に受けるな。
このあたりのやりとりは、航希のところでシュミレート済みだろ。
「……いいよ。『ラパン』でも『旬菜亭』でも。山岸さんとか高野さんも連れてくるといいよ」
「もお。またすぐそうやって予防線張ってくる。あたしはランチじゃなくて、ふたりっきりでディナーに行きたいんですっ。……ダメですか?」
南は作為的に唇と尖らす。
自分の表情が男の目にどう映るのか熟知しているのだろう、つやつやした唇も拗ねたような表情もたしかに可愛らしい。
けれど俺は南の愛らしさを楽しむ余裕もなく、涼しい顔の裏側で必死に航希が伝授してくれた「女の子のあしらい方」を思い返していた。