彼女いない歴が年齢の俺がもうすぐパパになるらしい。
「先輩も山岡くんにからまれて困ってたように見えたし、丁度いいなって思ったんですけど。もしかしてあたし余計なことしちゃいました?女子大生との合コン、本当は行きたかったとか?」
「………聞き耳してたのか?意外に噂好きなんだな」
「いちいち意地悪ですねー、その言い方。盗み聞きしちゃったのは謝りますけど」
甘えるような上目遣い。南の長い睫毛が意味ありげに震える。
「たしかに好きですよ。でもあたしが好きなのは『噂』じゃないんですけど?」
どんなに鈍い男でも「この娘、俺に気があるな」と悟らせることが出来るであろう、甘い声で南が囁いてくる。
彼女が自慢にしていた外資系のコンサルティング会社に勤める年収8桁だとかいうエリートと別れたばかりだというのは、鈴木たちの話す噂で小耳に挟んだばかりだった。
上昇志向の強い南がなんで平民サラリーマンの俺ごときにこんな思わせぶりな態度を取ってくるのか。
からかわれてるのか。
気まぐれなのか。
自棄なのか。
それともちやほやしてくれるキープが欲しいのか。
---------この際そんなことはどうでもいい。
今はこの状況を切り抜けることに集中すべきだ。ただでさえ南みたいな『女』を全開にしてる女の子と対面しているときはひどく緊張してしまうのだから。
『女にクールな花嶋橘平』が美女に秋波を送られて動揺してるなんて知られるわけにはいかない。緊張を気取られないうちに、早く南との会話を打ち切るべきだ。