AfterStory~彼女と彼の話~
 日付が変わる前に仕事を終えて、飲んだ後の帰りはタクシーでマンションに行けばいいや。

 藍山駅前でタクシーを捕まえて、俺たち編集長組と高坂専務でいつも飲む【Bar Jewelries】へ向かう。

 タクシーのラジオからは音楽番組が流れ、そういえば最近は音楽を聴く機械がないな。

『次のリクエストは、女性ファンからは"癒しの声"と言われている、吉井憲治さんの新曲で『Kiss of love…』です。この曲は、コスメブランド"M"のバレンタインフェアのイメージソングとなっております。私も"M"のバレンタインの期間しか発売されない限定ネイルがあるんですが、欲しくて!欲しくてたまりません!……すいません、興奮してしまいました。それでは吉井憲治さんの新曲、『Kiss of love…』お聴きください』

 番組を進行するナレーターはかなり興奮していたけど、男の俺でも吉井憲治という歌手の声は聴きやすいし、女性に人気だっていうのが頷ける。

 『Clover』の音楽コラムのページに取り上げてみるか?それとも、部下が企画書に書いていた『これが私の癒し特集』に登場してもらうか?

 これから飲みに行くっていうのに、何故か仕事モードになっちゃうな。

「お客さん、着きましたよ」
「ありがとうございます」

 タクシーは、いつの間にか【Bar Jewelries】の前に着いていた。

 代金を払ってお店に入ると、俺と同期でスポーツ部の『Scoperta』編集長である仁と高坂専務がカウンター席にいて、いつもならタウン情報部の『Focus』編集長の姫川もいる筈なのに、いないや。

「遅れてごめん。姫川は?」
「明日は早いから、パスだって」

 仁はいつものように淡々と答え、ロックを飲む。

「水瀬さんは何にしますか?」
「まだ何も食べてないので、摘まめる物に合う飲み物をお願いします」
「分かりました」

 マスターの三斗さんが、料理とお酒の準備に取りかかった。
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