AfterStory~彼女と彼の話~

├彼女が風邪を引きました(南山彰side)

【南山彰side】
彼女が風邪を引きました。


久しぶりに体調を崩して風邪を引いてしまったが、すっかり良くなった。

今は管轄内で発生した強盗の捜査で、容疑者と思われる人物が住むアパートの近くで車を止めて、山さんと張り込みをしている。

帰宅した所に突入するために交代制で見張っているが、まだ帰る様子もない。

夜になった今も部屋の明かりが点いてなく、何処かに逃げているんじゃないかと思っているが、山さんは『資金が底を尽きたらいずれ戻ってくる』と言い、こうして張り込みを続けているのだ。

「南山、今の内にコンビニに行って買い出しを頼む」
「分かりました」

俺はコンビニに買い出しを頼まれ、カゴを手にしてサンドイッチやパンを適当に入れていく。

飲み物の棚に行くと、沙紀が見舞いに来てくれた時のことを思い出した。

「栄養ドリンク、買って行くか」

山さんは、風邪を引いた俺に差し入れとして栄養ドリンクと梅干しと漬物をいれた袋を沙紀に渡した。

 (普段はゲンコツ1つを御見舞いする位に厳しいくせに)

でも…、一人暮らしだと食事は適当に済ませているから差し入れは嬉しかったし、沙紀が作ってくれたお粥も美味しくて、あんなに温かく感じた食事の雰囲気は何年振りだろうか。

 (いや、何年というより、10年か20年振りかもしれない)

「ふぅ…」

自分の家族の事を思い出すのは好きじゃなくて、深くため息を吐いて、栄養ドリンクを2本を掴んで会計をして、コンビニを出て車に戻る。

運転席のドアを開けて席に座り、助手席に座る山さんにパンと栄養ドリンクを渡した。

「どうぞ」
「おう」

山さんはパンの袋を開けて、かぶり付く。

「おまへはもう風邪はひいのか」
「食べながら話さないで下さい」

俺は容疑者の部屋のドアを見ながら、山さんに注意する。

「かわいくへーな」
「……梅干しと漬物ありがとうございました。栄養ドリンクも」
「……ふん」

お互い素直じゃないのは慣れたけど、山さんが嬉しそうに栄養ドリンクを飲んでいたのは声のトーンで分かった。
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