AfterStory~彼女と彼の話~

├愛の味(東雲沙紀side)

【東雲沙紀side】



愛の味は、どんな味?



「もうすぐバレンタインだよね」

署内の食堂で同僚とパスタを食べながら、2月になるとやってくるバレンタインの話題で持ちきりだ。

「義理チョコの値段を気にする部署もあって、買う立場の私たちは大変だよね。沙紀のところは、どのくらいの予算で考えてるの?」
「生活安全課は一律2500円だから、無難な金額かな」
「いいなぁ。交通課なんて味の指定まであったから、自分で買えばいいのにって思うよ」

交通課の同僚は不満が蓄積されているのか頬を膨らませ、フォークでパスタをぐるぐると巻きつける。

「本命のチョコだって決まってないから、迷っちゃう」
「本命か…」
「沙紀はいないの?本命の人とか」
「あ―…、まだいないよ」

本当はいるんだけど、まだ周りには伝えてない。

話したらこの狭い署内に一気に広まりそうだし、なにより本人も広まったら嫌だろうなって思うから言わないでいる。

「あっ、あそこにいるの同期の南山じゃない?」
「えっ?」

私は振り返ると南山がトレイを持ちながら、食堂のカレーを選んでいた。

「最近、交通課の新人婦警たちの間で南山が人気なんだよね」
「そうなの?」
「刑事課で若手だし、誰にも媚びないクールな所が良いって言うし、仕事も事件を沢山解決してるから将来は有望性があるって盛り上がっているよ」
「そうなんだ…」

同僚はパスタを一口食べ、私は食堂の端っこで食べる南山をちらっと見る。

南山は最近も成果を挙げているし、署内でも評価する声は聞いたことがあるけれど、女性からも人気だなんて初耳だ。

「南山は今度のバレンタインで結構チョコを貰うんじゃない?」

同僚の言葉に胸がざわついて、パスタを食べる気がしなくなってしまう。

 (チョコを渡されたら、受けとるのかな)

南山の性格を全て把握していないから分からないけど、無下にしないような気もするし、かといって受け取ったら嫌だなっていう自分がいて、何だかモヤモヤする。
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