AfterStory~彼女と彼の話~
S駅近くの警察署に向かい、南山と合流すると、そこには1人の眼鏡をかけた男性がいた。

「沙紀、小学校のバスケ部の先輩の水瀬さん」
「はじめまして、水瀬です」

水瀬さんはファッション雑誌の編集長をしているとのことで、服装がとてもお洒落な人。

南山とは偶然同じ映画館にいたそうで、2人は再開を喜んでいる。

「幸雄さん、お待たせしました」

事情聴取の部屋からすらりとした高身長の女性が出てきて、水瀬さんの彼女さんだと分かり、まだ表情が強張っているので、私は彼女さんの側に寄り添い、背中を擦って気持ちを落ち着かせる。

「犯人は逮捕されましたから、もう大丈夫です。恐いことはありませんよ」
「はい…」

普段生活安全課でも相談者の側に寄り添い、不安な気持ちを和らげたいから、この仕事に誇りを持っている。

「大分落ち着きました。ありがとうございます」
「もし困ったことがあったら、何時でも連絡を下さい。お力になりたいです」
「はい」

私は水瀬さんの彼女さんに名刺を渡した。

「また4人で食事でもしましょう」
「水瀬先輩、こいつ大食いですから後悔しますよ」
「彰は黙って!」

いつもは気難しい感じなのに、水瀬さんと話す南山は穏やかでいて、心を開いてるんだなって思う。

私たちのやりとりを彼女さんはにこやかに微笑んでいて、少しは気持ちもいい方向になればいいなと願った。

水瀬さんたちを見送って、私たちも警察署を出る。

「こんな時間だと、映画は微妙だな」
「そうだよね」

時間は午後8時を過ぎていて、今から映画を観るのは微妙な所だ。

チョコを渡すのも、まだ出来ていない。

「沙紀、俺のマンションに行かない?」
「どうして?」
「お腹空いたから、手料理を食べたい」
「良いよ。じゃあ、食材を買わなきゃ」

私たちは映画を諦め、南山のマンションへと向かっていった。

部屋に入ると、買った食材をキッチンに運んで調理にかかる。

「にゃあ」
「出来るまで待っててね」

南山が飼っている三毛猫が足元で鳴いて、私は抱き上げてリビングのソファに乗せた。
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