星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「アンコール有難う。

 先週から始まった今回のツアーも、
 今日で3回目。

 全6公演なので今日は折り返し公演です。
 久々のワンマン。

 楽しんでますかぁ?」



ステージの上。

サラサラの髪を頬に打ちつけながら
十夜がMC。

十夜ファンが一気に盛り上がるLIVE中も
私の視線は託実だけをロックオン。






託実は十夜のMC中、
ミネラルウォーターを一口飲んでは
ファンの方へとペットボトルを投げ込み、
最前列、ぎりぎりまで出てきては、
ファンたちにその手を差し伸べてくれる。



その手を握りたくて、
後ろからの押しが強くなる。



倒れ込みそうになる私を
託実の手がステージから支えてくれる。



その触れた温もりが、
それだけで愛しくて。



アンコールの曲も
夢心地の中で一気に終わる。




「Ansyal、天(そら)の羽音。

 本日の公演は終演いたしました。

 引き続き、
 握手会と写真撮影会が行われます。

 当選者の皆様は、ステージ近くまでお集まりください。
 
 握手会、撮影会に参加できない皆さまは
 すみやかに会場からご退室ください」




LIVE終了間際、女の人のアナウンスが
会場内に響く。



「はいっ。

 握手会、写真撮影会、当選されている方は
 携帯画面でその資格を掲示してステージ前に集まってください」



スタッフが握手会の準備を始める。


準備が始まった頃、私と唯香はそれぞれの分担で動く。

唯香は二人分のドリンクチケットを持って、
飲み物を引き換えに。

私は唯香のロッカーの鍵も預かって、
二人分のキャリーバッグと鞄を取って来て
再び合流。


その後は唯香と二人、当選通知を携帯画面で提示してから
スタッフが張ったロープの中へと入る。



中で列に並びながら、鞄からポーチを取り出してメイク直し。

会場内、写真撮影に備えて女の子たちはメイク直しに必死。


会場内に広がる様々な化粧品の香りが
交わっていく。



あっ、ディオール近くで使ってるよ。
私、この匂い苦手。



多少の吐き気が押し寄せる中
握手会が始まっていく。



並びは……。



十夜

託実
Taka




託実は最後の方か―。

Liveの後や、CDイベントなどである
ファンコールに通い詰めて、
名前か顔くらいは覚えて貰えてる私は
順番にいつもの時間を迎える。



「今日は有難う」

「こちらこそ。
 素敵なLIVEでした」


当たり障りのない挨拶をして
握手をした後、
ワンポーズの2ショット写真を
撮影してくれるスタッフ。

祈との時間は……
あっと言う間に過ぎて。


次は十夜。

「今日は有難ねー」

「次も楽しみにしてますねー」


祈と同じように……
面白さの欠片もない写真が収まる。



「百花ちゃんだっけ?
 今日も有難う」

「憲さん、
 今日……少し走りかけてましたよねー」

「あっ、やっぱり……百花ちゃんにはばれちゃった?

 託実に助けられたよ」

「ふふっ」


憲さんとは、
少しくっついて……パシャリ。


託実といつも親しい憲さんとは
話しやすくて……。


あっ……次、託実。


一歩一歩、歩く度に
託実が近くなっていく。



当たり前なんだど、握手会の握手で……
その手を取るたびにドキドキが強くなって
託実に心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかってくらいの
錯覚に陥っちゃう。


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