星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



途端に場内から一斉に湧き上がる
メンバーコールと歓声。


私の隣。

ドセンの唯香も両足を開いてどっしりと……構えると、
大好きなTakaに熱烈call。


会場内に『overture』が広がっていく。


overtureの調べにのって幕がゆっくりと開いて
ライトアップされたステージが美しい彩を見せる。



そして……順番に出てくる
Ansyalのメンバーたち。



最初にステージに
現れたのはドラムの憲(のり)。

メンバーの中では凄く大人しい印象が強い彼なのに
ドラムはパワフルで安定感がある。


「憲ぃ!!」



会場内に憲コールが湧き上がる。



憲が一礼してドラムの方へと移動していくと、
次に出てきたのは……ギターの祈(いのり)。


ちょっぴり照れ屋さんな祈は、ステージで一礼すると
照れくさそうに微笑む。


そんな姿に、祈ファンは悩殺されて
黄色い歓声が広がる。



次……、託実(たくみ)だよね……。




次に登場する託実が待ちきれなくて
テンションがかなりあがり、
もう……何度もメンバーコール。



「託実っ!!託実っ!!託実~」


Ansyalのメンバーの中では、
凄く大人な彼。



彼の知的な表情と時折見せる、
憂い帯びた表情……。


視線の使い方に、もう瞬殺されて
彼の瞳に捕らわれてしまう。



私の視線は、
託実が出てきた時から
託実以外は映し出さない。



ロック音された瞳は
最前列の視界の遮りがない場所で
少し首を上に向けながら
託実だけを追い求める。



あっ、十夜コールが聞こえてる。



あぁー、唯香がTakaコール。
気愛【きあい】いれてんじゃん。




なんて僅かな情報は入ってくるものの
他のメンバーはシャットダウン。




託実が、その指先から
弦をはじいて紡ぎだす安定した
心地よい低音に酔いしれて。



演奏しながら時折、ステージを見つめると
クールな眼差しと美しすぎる大人な微笑みで
ファンの視線を捕えていく。



ドラムの憲と常に信頼感を高め合うように
時折、アイコンタクトをとりながら
絶対に揺るぐことがない
リズム隊の絆を見せつけてくれる
Ansyalの縁の下の力持ち。


少し走りそうになる、
憲のドラムを必ず、暴走しないように
抑え込んでくれる託実のテクニックは
音楽雑誌とかでも絶賛されるほどで、
そんな心地よい……Ansyalの胎動に
身を委ね続ける時間。




アンコールが始まる頃には肌も汗ばんで、
喉もカラカラで。


隣の唯香から、
最大の絶叫が聞こえる。


「唯香、大丈夫?」


水分補給もままならないまま、
後ろから押される力に、柵にしがみついて
踏ん張り続けながら、Takaコールを続ける
親友を気遣う。



「大丈夫、大丈夫。
 意地でも絶対、動かないんだから」


そんなことを言う唯香も、
過去にはドセンで居座り続けたがゆえに、
ちょっぴり肋骨を痛めたこともある。

このポジションで留まりつづけるのは、
ある意味、体張ってようやく成しえるのが現状。


唯香はそうやって私に微笑み返すと、
もうステージへと意識を集中させて、
Takaコールを続けはじめた。

ステージに光が射しこみ
再び、メンバーが姿を見せる。
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