星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


ただ封筒の中、そう書かれただけの
一枚の便箋。


言葉には綴らなくても
その先の言葉は絵が教えてくれるから。

真実に触れた私の目からは
一筋の涙が毀れる。

こんなにも大切な思いのメッセージに
私の絵を選んでくれた託実が凄く愛しくて。



久しぶりに対面した自分の絵。

照れくささの中、奥へと歩みを進めると
壁一面に飾られた、ベースたち。


手を伸ばせば届く位置に、触れられる位置に保管されている
託実の相棒。


演奏することは出来ないけどそれに手を重ねて
触れられるだけで凄く幸せで夢のようだった。


その後、視線を向けたのは
楽譜などが保管されている書棚。


そこで見つけた
フォトフレームに入った写真。


「……お姉ちゃん……」


そこには……私の知らない託実が
もう一人、知らない誰かと一緒に病院の庭で笑ってた。


途端に……心に影が忍び寄る。

その先は見たくなくても
そればかり見えてしまう。

Ansyalメンバーとの写真
そんな託実の大切な写真たちが並ぶ
空間の中で、今も微笑み続けるお姉ちゃんの写真。


私の知らないお姉ちゃんと、託実の時間が
その部屋には流れているみたいで、
一気に耐えられなくなった。



楽しかったテンションは一気に急降下。


逃げ出すようにその部屋から、
最初の寝室に戻ると、着替えを済ませて鞄を手に取ると
私は託実の家を飛び出した。


マンションから外に出ると、少し霙【みぞれ】混じりの天気。

寒さに少し震えながらも、
私は行く宛もなく、街の中を彷徨う様に歩き出す。






託実の中には今もお姉ちゃんがいる……。

私なんて……
入る余地もないくらい。




少しくらいは、
入れる場所がないかな?って
僅かな期待は残してたのに……、
そんな望みは一気に崩れた……。





もういいよ……。



私は何時も、
ハズレ籤【くじ】ばっかなんだ。



家族のことにしても、
お姉ちゃんのことにしても……
最愛の託実の存在にしても……。








世界の色を見ることもないままに、
飛び出した私。



クラクションの音が
鳴り響き……鈍い衝撃が走る。

空を舞う……体……?




次の衝撃と共に生暖かいものが
自分の中から流れ出ていくのを感じていた。





……託実……。








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