星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「託実の罪悪感?」


「俺が理佳と出逢ったから、
 理佳は無理をした……。


 集中治療室の中に居れば、
 もっと生きられたかもしれない。
 
 妹と和解できたかもしれない。

 もっともっと幸せに慣れたかもしれない。


 だけど……俺と出逢ったから、
 アイツの全ては崩れ去った。


 俺の責任で、
 アイツは自分を犠牲にした。


 俺なんかと関わったから……」




俺なんかと関わったから……。



そう思った途端、
また息が吸えなくなった。



息苦しさから逃れようとするように、
首元に両手を向ける。



アイツの心停止を告げる
アラームの音が部屋中に響いた。


ただ立ち尽くすことしか出来なかった
俺を支えたのは……隆雪……だった。




『託実……大丈夫。

 今、託実が居る世界は過去。
 現実【いま】じゃない。

 ゆっくりと深呼吸してごらん。
 息を吐けば、
 人の体は息を吸えるように出来てるんだよ。


 吐いて……吸って……』





届いたその声に誘われるように、
地味な作業を繰り返しているうちに、
息苦しさがゆっくりと消えていった。




深く深呼吸をしたと同時に、
膝から崩れるように座り込む。



同時に手首に触れる指先。





「少し発作が出たみたいだね。

 
 託実、目を開けていいよ。
 目を開けて、現実【いま】を受け止めて。

 ここは何処?」





今度は促されるまま、目を開けて周囲を見渡す。




「理佳が使ってた病室。
 アイツと俺が最初に出逢った場所」


「そうだね。
 この場所は託実と理佳ちゃんが初めて出会った場所。

 初めて出会った場所だけど、
 理佳ちゃんの最期を迎える時間じゃない。

 ここに理佳ちゃんは存在しない。

 この場所に来て、理佳ちゃんを生み出すのは
 託実の罪悪感」


「俺の罪悪感……」

「そう。

 託実、理佳ちゃんが微笑んだ時間を
 思い出してみるといいよ。

 今理佳ちゃんが寂しそうな顔を託実に見せるなら、
 それは託実が、理佳ちゃんにさせてることになる」


「俺が……理佳の笑顔を奪ってるのか?」





俺はただ……
理佳に生きて欲しかった。

もっともっと俺に音楽を教えて欲しかった。

あっちの世界なんて行ってほしくなかった。

また……一緒に出掛けた
あの海に出掛けたかった。



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