星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「託実……逃げるように鋏を使っても、
 何も変わらないよ。

 理佳ちゃんの手を取ることが出来なかった託実の罪悪感は何?」


「罪悪感……。

 アイツを一人で逝かせたこと。
 アイツの最期の願いを叶えてやれなかったこと」


「託実……、
 今そこに在る理佳ちゃんの手をとってごらん。

 託実は理佳ちゃんを受け止めてるね。

 その上で、託実の本音を聴かせて。

 託実は本当に、理佳ちゃんを一人で逝かせたことに
 理佳ちゃんの最期の夢を叶えられなかったことに対して
 託実自身が許せないの?

 それとも本音は別にあるのかな?」





裕真兄さんの言葉に誘導されるように、
脳裏に浮かんだそのままの、理佳の手を掴み取る。


宙を彷徨い続けた細い手を
俺は両手で握りしめる。




『お前を一人で逝かせない』






逝かせない?



理佳に死んで欲しいわけじゃない。
アイツにはもっとずっと生きて欲しかった。



アイツが集中治療室に居ても良かったんだ。
理佳が少しでも長く生き続けてくれるなら。



アイツが大好きな妹と和解が出来るなら……。


あんなにも好きだって、
悧羅の学院祭の時も、何時でも、妹のことを自慢してた理佳。


逢えない時間を埋めるように、
一人、妹を思い続けるアイツの心が報われるまで
もっともっと、長く生き続けて欲しかった。


たとえ、家族じゃない俺が
面会することが叶わなくても。




だけど……アイツは、妹との関係修復の未来じゃなくて
目先の幸せに逃げた。




そんな理佳が…許せない……。




「俺……理佳が許せない。
 アイツに何も言えない俺自身も許せない。

 あんなに好きなのに、
 なんで理佳は妹のことから逃げるんだよ。

 大好きな人と傍に居たいって、
 集中治療室、無理して出てきて、寿命縮められても
 残された俺の罪悪感はどうなんだよ?」




そう……。


ガキの俺が抱き続けた、
罪悪感。





『俺が理佳を殺した……』

『俺さえいなければ、
 理佳はもう少し長く生きられたかもしれない』




そんな苦しみは、
やがて形を変えて複雑に絡み合っていく。

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