星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「凛華、落ち着いて。
 救急車が来てるなら救急隊にかわって?」


裕真兄さんがそう言うと同時に、
ベッドサイドの「呼び出しボタン」も同時に押す。


「はいっ」

「左近さん、裕真です。
 兄さん、直弥さん、大夢先輩、親父たちを捕まえて。

 これから急患が来ます。
 満永理佳さんの妹が交通事故で搬送されます」


それだけ告げると、
病室とナースステーションを繋いでた回線をオフ。



「神前大学付属病院の伊舎堂です。
 
 患者さんの関係者がこちらにいますので、
 搬送願いします。

 状況次第で、スタッフをそちらに派遣することも可能です。
 逐一、現状報告をいれてください」



その後も、裕真兄さんは一度通信を切った
PHSかせら次から次へと、連絡を取りながら病室を飛び出していく。


俺も必死に、裕真兄さんの後を追いかける。


「託実、聞こえたかもしれないけど
 凛華が、朝ご飯の買い出しに出かけたすきに
 百花ちゃんがマンションから抜け出して、近くで交通事故にあったらしい。

 目撃者の証言では、百花ちゃんが自分から車の前に飛び出したって
 いう声も聞かれる。

 
 百花ちゃんはこの場所に搬送される。
 今から、私も受け入れ態勢を整える。

 だけど救急隊の情報から推測するに、極めて厳しい状況には変わりない。
 託実、覚悟はしておいて」



それだけ厳しい表情で告げると、
裕真兄さんは、階段を降りて何処かへと消えていった。



「託実、状況は聞いた。
 理佳ちゃんの妹、交通事故だって?」

「裕兄さんや、親父は手術に入るのか?」


「私は加わらない。
 ここでやるべきことがあるから。

 唯ちゃんに連絡しないといけないだろう。
 こればっかりは。

 託実は、百花さんの家族に連絡を入れて貰えるかな」



促されるままに、携帯使用可能エリアから
登録している画廊の番号、理佳の叔父さんの携帯番号を順番に呼び出す。



震えだす体に必死に耐えるように、
電話をかけて、状況を説明すると電話をポケットに片付けて一息つく。






百花が車に撥ねられた?

俺が此処に一緒に
連れてきてたら?









また……新たな罪悪感が
俺を絡めて歪めていく。








~してたら?
~してたら?





世の中、
そんなことばかりだ。




「託実、目を背けない。

 その瞬間、託実は何を思って百花ちゃんをあの部屋で
 一人、眠らせてきたの?」


裕兄さんの言葉が俺を数時間前へと立ち返らせる。


「病院だと百花がゆっくり休めないと思った。

 あの時点で、良く眠ってたから起こすのも可哀想だった。

 後は……俺の部屋が、百花にとって少しでも
 羽根を休ませられる場所になって欲しい……。

 そう思ったんだ」


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