星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】





一人になりたいって思ったのか、
全てを終わらせたいって思ったのかなんて、
今の私にはわかんない。



そんなことも、
もう何も思い出せないから。




『モモ……、この海はね。とても優しいの。

 とても優しいけれど、とても残酷。

 落ちたものの願いを全て叶えるまで、
 沈めてしまうわ。

 悲しいと思った記憶も、苦しみも、寂しささえも
 少しずつ、少しずつはがれ落としながら、何も考えることが出来ない
 真っ白な心になるまで抱き続けてくれる。

 そして最後は海の中に溶けて還ってしまうの。

 そんな私の心を救ってくれたのはモモ。
 モモがね、にっこりと微笑んで私を抱きしめてくれたわ。

 何度も何度も、この海に落ちるたびに。

 海から帰ったお姉ちゃんは、裕先生と冴香先生、
 後は生意気だった託実に出逢ったの。

 託実と出逢った最期の一年間は、
 お姉ちゃんにとって、凄く輝いた一年だったと思う。

 大好きなモモが通ってる、学校にも行ってみたかった。
 大好きなモモの絵を見てみたかった。

 多分、今もお父さんやお母さんは大切に持ってくれてると思う。
 学院祭で託実が貰って来てくれた、百花の絵のポストカード。

 モモは気が付かなかったかも知れないけど、
 お姉ちゃんにとって、モモは希望なの。

 だから……私は、モモをこの場所に閉じ込めたくない。

 モモにはね、もっと翼を広げて
 お姉ちゃんが感じることが出来なかった世界を飛んで欲しいの。

 モモの背中には、生まれた頃から
 真っ白な小さな翼が見えてた。

 その翼はとても優しくて希望(ひかり)を
 降り注がせてくれた。

 だから……あの辛い、闘病の時間
 モモの笑顔があったから頑張れたのね。

 だけどモモの天使の笑顔は薄れていった。 

 お父さんもお母さんも私にかかりきりになって、
 モモから離れていく。

 モモについててあげてって、どれだけ言っても
 想いは伝わらなかった。

 モモには、おじいちゃまがいるからって。

 何時しか……モモ一人、
 苗字が変わってしまった。

 モモの心が悲鳴をあげたから。

 どれだけ……逢いたいと願っても
 その後……、私はモモに逢えなかった。


 やっと逢えたのが、
 この場所なんて……』




知ろうとしなかったお姉ちゃんの心。



お姉ちゃんの優しい温もりが、
そっと私の体を抱きしめて包み込んでいく。






私がお姉ちゃんの光?



お姉ちゃんが……私を一人ぼっちに
したんじゃないの?


お姉ちゃんが全てを私から
奪っていったんじゃないの?




本当ずっと寂しくて、凍てついていた心。


これ以上傷つきたくなくて、
お姉ちゃんの為に、願掛けにって
ワザと自分から距離を取って、捨てた家族。


そんな寂しい心がゆっくりと氷解していくと
同時に、剥がれ落ちた心の欠片が私の中に戻ってくる気配を感じた。


思わず胸元にゆっくりと両手を重ねながらあてる。


痛みに悲鳴をあげ続けたその想いが
ゆっくりと透明な夜空へと広がって
小さな星へと姿を変えていく。


ゆっくりと星空へと変えていく
その痛みの想いが移り変わると
深海に……無数の光が降り注ぎ神秘的な景色を届ける。

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