星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

その光が照らし出す世界に、
背中から翼が生えたお姉ちゃんが居て
お姉ちゃんの優しい腕が私を抱きしめる。





「お……姉ちゃん……」



『そうね。
 モモ、やっと逢えたね。

 入院してた時から、
 モモは何度も何度も病室に来てくれてた。 

 近くまで来てくれてたのに、
 モモは私の傍には来てくれなかった』



「……だって……神様に願掛けしたんだもん。
 ももが一番大切なものはお姉ちゃんだから。

 お父さんもお母さんも、お姉ちゃんにかかりきりで
 ずっと寂しかったけど、私のアルバムの中には、
 ずっと小さな赤ちゃんの私に、
 ミルクを飲ませてくれるお姉ちゃんの優しい写真があった。
 
 私が物心ついた時には、ずっと入院ばかりで逢えなかったけど
 アルバムの中のお姉ちゃんは、ずっと私に優しかったから」





だから……大好きなお姉ちゃんが、
生きてくれるなら、
私は何を失ってもいいって思った。



お父さんもお母さんもあげる。






お姉ちゃんの為なら、
何を失ってもいいって思ってたのに……
あの人だけは、無理だった。






暗闇の中、ずっと彷徨い続けてた私に
優しく寄り添って光を届けてくれた託実。






お姉ちゃんは静かに涙を流し続ける私を、
ずっと優しく抱きながら、
私の涙が落ち着くのを待ってくれる。




ようやく涙がおさまりかけた頃、
お姉ちゃんの指先が、私の涙を掬い取る。




その涙は、お姉ちゃんの息に吹かれて
シャボン玉の様に姿を変えていく。



私たち二人を包み込めるほどに大きく変化した
シャボン玉の中に、私とお姉ちゃんは閉じこめられて
その空間の中を漂い始める。




「これは……?」


『この玉はモモを守るためのもの。
 私は、モモを守るために来たんだもの』



そうやって微笑むお姉ちゃんはの笑顔は、
アルバムの中の笑顔。



病室のベッドで一人、苦しそうに寂しそうに笑みを浮かべる
それとはあまりにも違い過ぎて、凄く綺麗だった。




『この深海(うみ)はね、悲しみのほとり。

 一人になって、全てを終わらせたいって
 モモがそんな風に感じてしまったのかな。

 ずっとずっと昔、まだ託実に出逢う前に……
 冴香先生に出逢う前に、
 私も一人ぼっちで来てしまったから』




そんな風に私に話かけるお姉ちゃんは、
少し視線を遠くへと向けた。


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