星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「有難う。
 親父たちにも、百花の御両親や会長にも話は通してる。

 まだ具体的な動きは出ていないけど、
 身内に話すことによって、随分と俺の想いも固まった気がする。

 Ansyalだけど、あと少し時間が欲しい。
 雪貴がもう少し立ち直るまで」


「そんなこと託実に言われなくても心得ているわよ。

 それより、向こうにいる国臣からまだ正式には通達は来ていないけど、
 昨年のピアノコンクールで、雪貴最優秀賞受賞したわよね。

 それの副賞の一つでもある、留学の話題が出始めているみたいよ。

 本当は、年明け早々だったけれど、雪貴が体調を崩して入院していたでしょう。
 夏くらいを目途にって言う話も出ているから、
 託実も、その辺りも視野に入れてAnsyalの活動計画を視野に入れておいて」

「了解。

 Ansyalには、雪貴の可能性を潰す奴はいないってわかってるけど
 軽く十夜や紀天先輩、祈にもふっておくよ。

 雪貴が何処に相談しても背中を押せるように」




出来れば……
俺のところに真っ先に報告してほしいけどな。



「じゃ、百花のところに行ってきます」

「はいっ。
 いってらっしゃい」



一礼して事務所を後にすると、
愛車に乗り込んで、自宅マンションまで車を走らせる。



エントランスでスタッフに会釈だけして、
エレベーターで自分の階へと向かうと、
久しぶりにマンションへと踏み入れた。


百花が退院したら、
この部屋で生活を始めよう。


隣の建物には、
雪貴と唯ちゃんが同棲してる。

その為には、この殺風景な部屋も
百花が生活しやすいように、準備しておかないと。

あっ、その前に……正式に、
百花の両親や会長にも許可を貰わないとな。



結婚を前提にって話を通しているんだから、
正式に結婚を申し込みに行くってことになるんだろうか。



その辺りの知識がまだ乏しいな。





そんなこれからの未来を考えながら、
家の中を換気して、軽くモップをかける。



そして書斎の棚に片付けてあった、
封印の茶封筒を引き出しから取り出す。





分厚い封筒の中身は、
理佳がベットの上で書きつづけた五線譜。




告別式のあの日、
封筒から一度だけ出したきりの紙に手を伸ばす。


封筒から引き出して、
裏を覗くと、今も理佳の文字が顔を出す。
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