星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



「あぁ、御馳走さま。
 良かったねー、百花」


「何よ、その言い方。

 唯香こそ、私が知らないところで雪貴君の御両親公認で
 同棲してたなんて。

 後で聞かされてびっくりしたんだから。

 雪貴君も、唯香手がかかるでしょ」



そんな話を振りながら、
反撃する百花。






そんな時間が今は愛おしい。






「雪貴、あぁ。
 この問題な。

 後で俺が勉強してた時のノート、
 マンションに届けるよ。

 遅くなったらポストに投函しておくから、
 それを見てやってみな」


「有難うございます。
 さっ、唯ちゃん。今日は帰ろうか?
 
 1週間ぶりに託実さんが帰って来てるわけだし、
 俺たちが邪魔したらマズいでしょ」




そう言って雪貴はテーブルに広げた教科書を鞄に詰め込んで、
唯香ちゃんの方へと向かう。




「じゃ、後はごゆっくり。
 また来るわ、百花」

「お邪魔しました」




そう言って病室を後にした唯香ちゃんと雪貴。



「下まで送ってくる」


ポケットのIDを取り出して二人の後を追いかけると、
1階のエントランスまで見送ってコンビニで飲み物を調達して、
最上階へと元来た道を戻る。




購入してきたお茶を、
キャンパスに向かい続ける百花の前に差し出す。



「あっ、有難う。
 冷たくて気持ちいい」



そう言いながら百花はペットボトルを頬へと押し当てる。



「かしてみな」


手渡されるままに受け取って、
キャップを開けると、再び百花の掌へ。


自分のキャップも開けて、
一口、飲み込む。



俺が飲んだのを見届けて、
百花もゆっくりと口の中にお茶を入れて
コクリと飲み込んだ。




「少しずつ色が重なってるんだな」

「うん。
 だけど……まだ思い通りにはいかなくて苦戦してる。
 目覚めたばかりの頃は、すぐに完成しそうな気がしてたのに」

「まだ時間はあるんだろう。
 星空をバックに流れてるこの羽は、理佳だよな」



思わず呟く。



「うん……。
 私の中のお姉ちゃんはいつも天使だから」

「今なら気が付ける。

 中二の学祭の時に展示してた絵もそうだし、
 中二の夏頃かな。

 百花の絵、この病院に飾られてただろ。

 それにも……真っ白い羽根が描かれてた」

「うん……。
 ずっと私の絵には、真っ白い羽根が付き物。

 だってお姉ちゃんを思いながら、
 筆を走らせてたから。

 多分、それは今も変わらないよ。

 私の絵は、お姉ちゃんに届けば嬉しいものだから」




そう言いながら、百花は優しく笑った。
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