星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】



前はこんな風に穏やかに笑えなかった。


理佳の話をする百花は、
何処か寂しそうで……。



「ねぇ、夢の中でね。
 私、お姉ちゃんにあったの。


 お姉ちゃんが言ってた。

 私の絵のポストカードを、お姉ちゃんが持っててくれたって本当?
 託実がくれたって、お姉ちゃん嬉しそうに笑ってたの」




そうやって紡がれたエピソードは、
俺と理佳にしかわからない、学院祭での出来事で……。

当時、ギャラリーを不在にしていた百花は、
その場所には居なくて、その時間当番だった生徒にお金を支払って
購入してきたものだった。




「あぁ、確かに渡したよ。
 理佳があの場所に行って、百花の絵の前から離れなかったから。
 
 そしたらポストカードが販売されてて、当番だった生徒に売って貰った」


「そうだったんだ……。

 あの時ね、私がギャラリーに戻ったら
 部員達、大騒動だったんだよ。

 悧羅校の陸上部のエース、託実がやってきたって。

 海神の私たちには、託実が膝を壊してそんなことになってたなんて
 知らなかったから。

 託実はずっと、陸上部のエースで憧れの先輩だったの」



そんな昔話を語りながら、
百花はにっこりと微笑んだ。



「そんな託実が今、
 私の傍に居るって凄くびっくり。

 あの時の美術部の友達も、凄く驚くと思う」


「じゃ、びっくりついでに俺からも百花に報告。


 百花が見られたかどうかは俺には知らない。
 だけど、あの時の学院祭で理佳が演奏したのは知ってる?」


「……知ってる……。

 だって ゲストピアニスト:満永理佳ってお姉ちゃんの名前が
 ポスターに入ってたから。

 一番後ろで聴いてた」


「あの演奏も……理佳は百花の為に演奏してた。

 本当は、理佳はあの頃も少し調子崩してて
 親父たちも内心は出場を反対してた。

 けど理佳が、モモが通ってる学校に行ってみたいってさ。
 あのアイツが我儘言ったんだぞ」



百花は何かを考える素振りをして、ふふって小さく笑う。




「ゆっくり、教えてやるよ。

 百花が知らない理佳のこと。
 俺が知ってる、理佳のこと。

 理佳がどんだけ、モモ命のシスコンだったか聞かせてやるよ。

 だから……退院したら、アイツのお墓に一緒に行くぞ。


 俺も、百花と一緒に行くまでは
 一人では行かないから」


「……うん……。
 託実と一緒に行く……」


「あぁ、一緒に行こう。

 俺が……百花と理佳を繋ぐ、
 架け橋になってやるから。

 ちゃんと和解しろよ」



そんなことを言いながら、照れ隠しに
百花の額に、軽く指先でデコピン。



「もうっ、痛い」


慌てて額を抑える百花。






そんな百花をからかうのも、
今は楽しくて。






ゆっくりと今は、
一歩ずつ焦らず歩いていく。




幸せの形を探しながら。



< 185 / 253 >

この作品をシェア

pagetop