星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


時折、疲れているのが感じられる百花を気遣いながら
休憩を挟みつつ、披露宴が続いていく。



そんな披露宴の最中、サプライズは起こった。



突然、会場内にセッティングされた機材が運び込まれていく。



突然の見慣れた機材搬入に、
俺自身が戸惑う。

予定だとここは、
オーケストラの演奏になってたはずなんだけどな。



オーケストラが演奏するAnsyalのoverture。

overtureから繋がる、天の羽音。

十夜の伸びやかな声が聞こえて、
会場内の意識が、十夜の声へと集中する。



百花は何事かと俺を見つめるものの、
俺自身も突然のサプライズに振り回される。



十夜の背後には、憲と祈が姿を見せて
セッティングされた機材へと向かい、
オーケストラの輪の中からは、ゼマティスを手にした雪貴と
俺の相棒を手にした、裕兄さんが姿を見せた。

「託実さんっ」
「託実」


裕兄さんから受け取った相棒のストラップを肩から下げると、
百花の元には、唯香ちゃんが近づいている。




なんだよっ、
お前ら当日のこの時間まで
俺にすら、打ち合わせなしかよ。


「託実。
 
 モモちゃん、
 今日はおめでとう。

 現在、活動休止中のAnsyalですが
 今日一日だけ……モモちゃんの為に
 復活することになりました」



珍しい十夜の語り口調。



十夜の言葉の後、裕真兄さんから受け取ったベースを
一度高らかに振り上げて、ストラップを肩から通すと
演奏しながら、メンバーの待つステージへと向かった。


すでに会場内はざわつき始める。



ステージへと移動してから、
百花の方に視線を向けると、
唯香ちゃんが、何時ものドセンと呼ばれるその場所に
百花の手を引きながら連れてくる。



「えっと、新婦の百花の親友、
 唯香です。

 新婦の百花と一緒に、
 新郎の託実さんがやってる
 バンド、追っかけてます。

 今は、理由があって
 活動休止してるんですけど
 うちらにとって、
 凄く大切な音楽なんです。

 初めて、
 聴く人が殆どだと
 思うけど
 良かったら
 一緒に楽しんでください」




そんな軽い感じで挨拶をする唯香ちゃん。


拍手で迎えられた、何時ものLIVEとは違ったノリの
客層の中での演奏曲。



「Ansyal~」



ざわざわと声が聞こえ、普段のLIVEでは考えられないような
手拍子が会場内に湧き上がると、唯香ちゃんは俺たちのバンド名を
大声で叫んだ。
< 221 / 253 >

この作品をシェア

pagetop