星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】


「何してたって、唯香はTakaの権利見事勝ち取っちゃって
 幸せの時間。

 一人でホテル居るの寂しいなーって思っちゃって
 ヤケ酒じゃないけど、無性に散在したくなったって言うか
 買いもの行きたくなっちゃった」

「俺が百花ちゃんの番号を引けなかったから?」


紅茶のカップを口元に運びながら、
託実が言葉を続ける。



「そんな……託実さんは悪くないです。
 
 私がもっと、
 ディズニーで頑張ったら良かったんだから」


「百花ちゃんは、三枚だったかな?」

「えっ?はい。そうです。
 三枚です。

 アドベンチャーランド、トゥモローランド、ファンタジーランド。
 でも後一か所はわからなくて」

「俺のアー写は、三枚で最大だったんだ。
 一番多い子で、五回くらい出てたんだけどね。

 この熱さに少し立ちくらみを起こして、
 夜に向けて調整するために、俺は三か所にしか出てなかったんだ」


そうやって言葉を続けた託実に、
私はその三枚すべてを手に入れられたことが嬉しくて
胸を撫で下ろす。

権利の全てを手に入れながら、外れてしまったのなら……
それはもしかして、こうなる時間を……夜に託実と二人で会える時間を
神様が用意してくれてたから遠慮しろってことだったのかもしれない。


「それで……立ちくらみって、託実さん今は?」

「もう大丈夫。
 水分補給のタイミング失敗したのが原因だったみたい。

 夜の大役も無事に終わって、少し行きたい場所があったからね。
 そこに立ち寄って帰ってきたら、こんな時間だった。

 それで百花ちゃんに出逢えた」


何時の間にか空っぽになった紅茶のカップをテーブルに置くと
妙に託実を意識してしまって、ドクン・ドクンとそのビートを弾ませて行く鼓動。

遠い存在だった託実が、
こんなにも近くに感じられるから……。


「どうかしたの?百花ちゃん」

「あっ、いえっ。
 えっと……緊張しちゃって」



その言葉の後、
一気に託実の顔が近づいてきて唇に何かが触れた。


暖かい感触が流れ込んだ途端、頭の中は真っ白。


慌てて逃げるように立ちあがった私は、
テーブルに足をぶつけて、託実の目の前で豪快にコケる。


慌ててフォローしようと手を指し伸ばしてくれる託実から
抜け出すように、私は託実の部屋から飛び出した。



カチャリっと託実の部屋のドアが閉まる音を背後で感じながら。


夢の時間を過ごしたシンデレラがガラスの靴を忘れたように、
私も託実に持たせてしまった戦利品の全てを忘れ、
託実の部屋を飛び出した瞬間をまさか関係者に見られているとも知らぬままに。


靴すらまともに履けないまま、
エレベーターに乗り込んで、自分の階のボタンを押すと
壁に持たれる。
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