星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】




「おはようございます」



画廊の関係者出入り口のドアの前で
IDカードをかざして、ロックを解除する。



「あらっ、おはよう。
 百花ちゃん、ちゃんと眠れた?
 若いうちに無理してると、後が大変よ」



そう言って私を迎え入れてくれるのは、
お祖父ちゃんの秘書をしている女性スタッフ。


「私、何時ものデスクでエクセル作業しますね」


そう言うと、自分の定位置のデスクに座って
今日、納品された作品を確認しながら
エクセルで入力作業を繰り返す。


単純作業だけど、有名作家さんの作品を
じっくりと見れる貴重な時間。



そんな合間に、絵画を求めて来店された
お客様たちの接客をこなしたり、お祖父ちゃんを慕って来店する、
若き画家たちを持て成したりと事務方作業も慌ただしい。


いつもの変わり映えのない仕事を終えると、
夕方、私は退社して駅構内の着替え室付のお手洗いで
仕事用のスーツを脱いで、自分でデザインしてハンドメイドした
ゴス服に袖を通す。


AnsyalのLIVE仕様に武装中。


手早く脱ぎ落したスーツをキャリーバックに詰めて、
鏡の前で、黒と青をベースにメイクアップ。


髪をセットしてブリーザ-ブトフラワーで作り上げたお手製の
薔薇の髪飾りを付ける。

首元にはチョーカー。


武装している最中に、
物凄い勢いで飛び込んで来る親友。


「ごめん。
 百花、今日に限って会議って有り得ないわ。
 って言うか、めちゃくちゃ素敵」

「ほらっ、唯香も着替えておいでよ。
 開場まで時間ないよ」

「うん、着替えてくるよ」


唯香はそう言うと、
キャリーバックを持って着替え室へと入って行った。

唯香が着替え終えて出て来た頃には、
最寄り駅のトイレには、
LIVE用に武装したファンたちが集結してる。


異様なまでに、
黒か白かにくっきりと分れた人だかり。


軽く、一般のお客様はドン引きしそうなレベル。


そんな状況でもマイペースに、
着替えを終えた唯香はキャリーバックを引きずりながら
私の方へと近づいてくる。


パニエを中に三枚は仕込んでるんじゃないかと
思いたくなるほど、フワフワとさせて
美しいシルエットを描き出したひらひらとしたゴス服。


そんな唯香の仕上げのメイクを軽く手伝って、
私、お手製の髪飾りをセットすると私たちはお手洗いを後にした。


構内を通り抜け階段を上がって地上に出た途端に、
LIVEに来たであろうファンたちがごった返す。



「整理番号順に並んでください」


LIVEハウス前の歩道に、
メガホンを持って、整列を促すスタッフ。


鞄の中から取り出したチケットを手に、
誘導れるがままに列に並ぶ。


整理番号、3番と4番。
唯香の愛もあって、かなりの神番号だった私たち。



開場と同時に速攻で会場内に入ると、
ロッカールームにキャリーバックと鞄を突っ込んで、
すかさず何時もの定位置へ。


唯香の定位置は、ドセンの最前列。


私は唯香の隣の位置を陣取って、
開演を待った。


外に居たファンが会場内に入って来て、
あっという間に、フロアーはお客さんでいっぱいになっていく。


灯りのついた会場内に、
メンバーたちの楽器の音が、調弦しているのか鳴り響く。

それと同時に、会場内に響くBGM。


BGMの音量が少しずつ、
大きくなっていって、その音に耳が慣れた頃
突然、会場内の照明がパチンと落とされる。

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