氷と魔女《specialstory 完結》
椅子はスローモーションのようにゆっくり回転した。


椅子に深々と座るのは…


綺麗な金髪をした、40代ぐらいの男の人。

薄い茶色の目は、春美ではなく、私だけを捉えていた。


私はその瞳をじっと見つめ返す。

…睨み返す、の方が正しいかな。


「…ふっふ…さすが、御垣家だな。

まあ、今はこの話は関係ないだろう。

用件は、何かな?」



『御垣家』……

やっぱり、と言うべきなのかな。


この人も、きっと政府関連者だ。


「…今回は、私、御垣と武藤が、理事長共に校長、教頭の先生方にお話したい…

いえ。交渉したいことがありまして、ここに来ました」



私は表情を変えず、ただ理事長の目を見ながら言った。


「………ほう。交渉、ですか。それはなんでしょうか?」


理事長は少し口角を上げると、私の目を見返した。


「今度、テストがありますね。
そこで、私は1位を、武藤春美さんは10位をとって見せます。

つまり2人とも、順位を変えないということですね」


「……で?」


「はい。そのあかつきには…

私と武藤春美さんを、退学させていただきたいと思います!」



私は一瞬自分の魔力を最大限に出す。

一瞬だけど、黒いもやがこの部屋に広がった。


春美はついにはクラクラしたのか
壁にもたれかかった。


メッサもふらついた。


……ルシアは、表情を全く変えなかった。
まあ、それは予想通りだ。

私の予想が正しかったらこれが1番普通の反応だ。




ただ、理事長はにこっと少し笑っただけだった。


「ナリメリアは基本退学なしの学園。

それを…まあ、挑戦状みたいにしてトレードするとはね。

面白い。いいでしょう。楽しみにしてますよ。

授業がもう始まります。行きなさい」


理事長は相変わらず君悪い笑みを浮かべながら私と春美に出て行くように言った。


「…し、し失礼しました」
「失礼しました」


一瞬気絶してたのか、春美は目が覚めたようにドアノブに手を出した。


春美が先に出て行って、私が出て行こうとドアを閉めようとした時…


奥に見えた理事長、ルシアの顔は



私の目を射抜くように、じっと見ていた。

ただ理事長は、相変わらず微笑みながら。





そして、メッサは…

不安気な顔をしながら、私を見届けたのだ。


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