すれちがい
 それは同じ中学の健一だった。実は私、中一の時この健一に振られている。
 
でも、こんなにそばで健一の顔を見たのは初めてだった。
 
私は赤くなっていく顔を見られたくなくて、健一に背を向け、手すりをぎゅっと握った。
背中に感じる広い肩、私がつかまっている手すりの少し上を持つ大きな手、斜め上をちらりと見ると見える健一の顎。ドキドキが止まらなかった。
 
健一はずっと私に顔をそむけていたが、電車がカーブで傾いたとき、私が押しつぶされないようにしてくれていることがすぐに分かった。
 
 電車が止まり扉があくと、健一の姿はもうなかった。
 
「大丈夫だったか?」
 
 声をかけてきたのは、大地だった。
 
「……うん」
 
 大地と学校の校門まで一緒に行ったが、なんとなく大地と一緒にいるところを健一には見られたくなかった。
 
次の日も、また次の日も、大地は通学電車の時間を合わせてくれて、一緒に通学した。あれから健一には一度も会わない。
 
毎日毎日一緒に登校する私と大地を見て、みんなが噂しはじめた。
 
知らないうちに公認カップルに仕立て上げられ、否定しても誰も聞いてくれない。
 
ある日の通学中、ブレーキで押された時、大地が私の耳元でぼそっと言った。
 
「みんなが言う通り、付き合っちゃおうよ」
 
 大地は、見た目もそこそこかっこいいし、話も面白いし優しい。なにより通学は大地がいないと、電車にも乗れなくなっている私。彼氏にするには申し分がない。なのに、どうしてか健一の手が頭をよぎる。パッと大地の顔を見ると、照れくさそうな笑顔がそこにあった。
 
「俺じゃ、ダメかな?」
 
 大地のこの笑顔を曇らせたくない。でもどうしても、健一のことが頭から離れない。私はなんて返事をしたらいいかわからず、黙って下を向いた。
 
 
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