すれちがい
第1章 優里
高校に入って、初めて一人で電車に乗った。
 
通学の時間帯は思ったより電車が混んでいて、たばこの臭いとオヤジ臭で気分が悪くなる。
その上カーブやブレーキで押されたりするのが、たまらなく苦痛。こんなことなら、もっと近い地元の高校を受ければよかった。
 
毎日毎日、気分の悪さと戦いながら通学していた。
これで学校が楽しくなかったら自主退学していたところだ。そんな話を友達としていたら、中学から少し仲の良かった大地が言った。
 
「なんだよ、もっと早く行ってくれれば、俺が一緒に通学して、守ってやんのに」
 
 いつもの軽いノリでさらりと言い、向こうに行ってしまう。友達には冷やかされたが、大地が本気で言っているのか、何なのか、理解不能だ。
でも、あの辛い通学地獄から守ってくれるなら、大歓迎だった。
 
 
 次の日、約束通り大地は同じ電車に乗ってくれた。いつものノリで冗談を言ってくれて、気分の悪さも少しまぎれた。
 
 突然のブレーキ
 
 私はつかまっていたつり革を離してしまい、たくさんの人に押された。大地の姿ももう見えない。
 
入り口近くで誰かが私の腕をつかんで引っ張った。そのはずみで入り口のドアの方に行けた。目の前にある手すりにしがみつき、助かったと思った。
 
「大丈夫?」
 
 耳元で低い声。さっき腕を引っ張ってくれた人だと思い、顔を上げた。
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