すれちがい
高校に入り、あの子と同じクラスになった。
 
中学の時、結構頑張って話しかけたおかげで、あの子の「仲のいい子」の一人にはなっているはずだ。
 
 今日も放課後、あの子の「仲のいい子」連中で集まって話をしていたら、通学電車が苦痛という話になった。この中で同じ中学なのは俺だけ。チャンスと思い、軽く言ってみた。
 
「なんだよ、もっと早く言ってくれれば、俺が一緒に通学して守ってやんのに」
 
 言った後、めちゃくちゃ照れてしまった俺は、
 
「じゃ、また明日な」
 
 とだけ言って、急いで帰った。
 
 
 そういえば、何分の電車に乗るのか聞きそびれた。俺は次の日早起きし、いつも乗る電車の3本前くらいからあの子を待った。
 
 2本待った時、健一が来た。
 
そりゃそうだ。同じ高校だ。でも、俺はまだ健一を許しちゃいない。
 
声をかけず、通り過ぎるのを待った。
しばらくして、あの子が来た。俺が待っていたことに少し驚いて、一緒に電車に乗った。
 
楽しく話をしていても、入り口のそばでカッコつけて本を読んでいる健一が気になる。なんだよあいつ!
 
 健一に気を取られていたら、突然の急ブレーキ。
 
 あの子の手がつり革から外れる。
 
とっさにあの子の手をつかもうとしたが俺の手からもすり抜けていく。
 
あの子の腕をつかんだ手が自分の方へ引き寄せる。気が付くと、あの子は健一の腕の中で真っ赤になっていた。
 
 満員でぎゅうぎゅう押され、次のカーブでとうとう健一とあの子の姿が見えなくなった。
 
 電車を降りると、俺は必死であの子を探した。
 
いた!
 
「大丈夫だったか?」
 
 声をかけたのが俺だとわかった時の、少しがっかりした顔が、胸を締め付ける。
 
俺と話していても、時々遠くを見るのは、健一を探しているんだとわかった。
 
 俺は次の日も、その次の日もあの子を待った。今度こそ、あの子のピンチを救うのは俺だ。
 
何があっても助けてみせる。毎日毎日いっしょに登校した。
 
 いつの間にか俺とあの子が付き合っているという、うわさが流れた。
 
そんなうわさが流れると、あの子が俺から離れて行ってしまうかもしれない。
 
怖くなった俺は、通学途中ブレーキで押された時、踏ん張ることもせず、あの子の耳元まで近づいた。
 
「みんなが言う通り、付き合っちゃおうよ」
 
 パッと振り向いたあの子は、じっと俺を見た。
 
なんか恥ずかしくなり、照れ笑いを見せると、あの子の顔が少し曇った。やっぱり心にあるのは健一のことなのか……。
 
「俺じゃ、ダメかな?」
 
ダメもとで聞いてみた。返事はしてもらえなかった。
 悲しそうにうつむいたまま、何も言わなかった。
 
いいんだ、俺、いつまでも待つよ。あの子の心から健一が消えるまで、俺はずっと通学電車のボディガードをし続けると心に決めた。


おしまい
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