サヨナラなんて言わせない
無理をして言葉を続けるその姿に耐えられなくなった俺は咄嗟に彼女の手を掴んだ。その拍子に彼女が手にしていた封筒がハラリと床に落ちる。

だがそんなものには目もくれない。
何故なら彼女の手が燃えるように熱かったからだ。

くそっ、既に予想以上にすごい熱があるじゃないか!

彼女は俺がここにいるせいで無理して出掛けようとしているに違いない。
このままでは倒れてしまうかもしれない。
不本意だが、このまま無理をさせてしまうくらいなら俺が出ていった方がマシだ。

「涼子さん、やっぱり熱があるじゃないですか。お願いですから休んで下さい。僕がいるせいで出掛けるんなら今すぐ出ていきます。だから無理しないでくださ」


ドンッ!


最後まで言いきる前に思い切り突き飛ばされた。
その勢いで彼女は俺を睨み付けた。
その目は体調のせいか寝不足のせいか、真っ赤に充血している。

「今更何言ってんの?偽善者ぶらないで!」

「涼子さん、待って!」

叫ぶと同時に部屋を出て行こうとする彼女を引き止めるが、
驚くほどの速さであっという間に出て行ってしまった。
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