サヨナラなんて言わせない
「お前、俺に似てるんだよ」

「・・・・えっ?」

「昔の俺にそっくりだ。不器用で、情けなくて、格好悪くて・・・・でも一生懸命で」

嘘だとばかりに目を大きくした俺に森さんは首を振る。

「信じられないか?でも本当なんだよ。俺も弱い自分に勝てなくて無茶した時期があってな。そんな俺を立ち直らせてくれた人がいたんだよ。・・・・でも、その人は長くせずしてこの世の人ではなくなってしまった。もっともっと恩返ししたいことがあったのに。・・・・だから俺は決めたんだ。その分をこれから俺を見て育つ奴に返していこうってな。もちろん誰でもってわけじゃない。ちゃんと才能と資質と、それからそいつの人間性を見た上で判断してる」

「森さん・・・・」

なんだ、この胸の奥から沸き上がってくる感情は。
・・・もう何も言葉になんてできやしない。


「もう一度言うぞ。お前ならやれる。どうする、やるか、やらないか?」


真剣な眼差しで真っ直ぐに俺に投げてきた球を受け取らないなんて男じゃない。

俺は震えそうになる声を一度呑み込むと、彼の瞳を真っ直ぐ見返してはっきり言った。


「やります」


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