サヨナラなんて言わせない
この一報を聞いたのは事務所で仕事をしているときだった。
業務をほとんど終え、もう帰る手筈も済ませている時に鳴った一本の電話。
そこで予想もしていなかったことを告げられた。

だが、この3年の努力が一つの形として認められたという喜びに、
次の瞬間俺の体は勝手に動いていた。



そう、あの日__

涼子と再会したあの日、俺は無我夢中で事務所を飛び出していた。
カナの制止も振り切り、ただ涼子に会いたくて。
本当に無意識だった。
頭は真っ白だった。

よもやその直後本当に頭が真っ白になる事態になるとは夢にも思わなかったが。


「・・・・くっ」

思わず笑いが零れる。
どこまでいっても情けない、それが俺という男なのだ。


「南條さん、この度はおめでとうございます。先日はありがとうございました」

ほんの一時の息抜きも束の間、またすぐにかかった声に振り返る。
そこにはスーツをビシッと着こなした髪の長い女性が立っていた。

「あ、えーと・・・本田さん。ありがとうございます」
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