サヨナラなんて言わせない
彼女は数ヶ月前にインタビューを受けた雑誌の編集長だ。

「本当に凄いですね。南條さんならいずれとは思ってましたけど、こんなに早く受賞されるなんて、私もまるで自分のことのように嬉しいです」

「いえ、そんな。恐縮です」

彼女は満面の笑みを携えて俺のすぐ隣まで近付いて来る。
密着し過ぎな距離まで来ると、上目遣いで俺を見た。

「あの・・・もしよろしかったら、この後お酒でもご一緒にいかがですか?お祝いにご馳走させてください」

最後まで言い終える前に、彼女の右手が伸びてきてそっと俺の腕にかけられる。その目は明らかな意思をもっており、一体どうすれば男がグラッとくるのかを全て計算済みなのだろう。

大抵の男なら悪い気はしないのだろうが、俺は違う。
俺は自然な動作で腕をすっと引くと、彼女の手がそこから離れた。
その瞬間女の顔色が変わる。

「ありがとうございます。ですがお気持ちだけで充分です。私には心に決めた女性がいますので、どなたとも個人的なお付き合いはお断りさせていただいてるんです。またお仕事する機会があればその時はよろしくお願いしますね」
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