未明
シーン2 川田(カワダ)
   突然、要子がノートを燃やす手を止める。
   要子が持っているノートの表紙には小学5年生と書かれている。
   要子はノートを開き、あるページに目を落とす。
   すると、要子の背後からランドセルを背負った川田が駆け出してくる。

川田 「おいブツブツ、こっち向けよ。」

   川田の台詞をきっかけに、記子は11歳の姿になる。
   要子はノートの内容を朗読しはじめる。

要子 『2001年7月5日。朝起きたら、またおでこにニキビができていました。
    全部合わせたらこれで7つ目。
    変な液は出るし、なんだか気持ちが悪いです。
    学校の帰りに、また川田にからかわれました。
    好きでこんな顔になったんじゃないのに。』

川田 「無視してんじゃねーよ。おい、お前だよブツブツ!」
記子 「なに?」
川田 「うわー、相変わらず不細工だなぁ。またブツブツ増えたんじゃねーの。」
記子 「うるさいな、あっち行ってよ。」

   記子、川田を払いのける仕草をする。

川田 「さわんじゃねーよ、ブツブツがうつるだろ!」
記子 「うつらないよ!私とびひじゃないもん。」
川田 「じゃあなんなんだよ。」
記子 「ニキビだよ。大きくなったら、みんなできるんだって
    お母さんが言ってたもん。」
川田 「はー知ってるしー。『コクりコクられ振り振られ』って言うんだろ?
    お前はデコと右に多いから、誰かにコクって振られたんだー。」
記子 「告白なんてしてないもん!」
川田 「まぁこんな不細工じゃ、告られてもみんな逃げちゃうけどなー。」
記子 「告白なんてしてない!」
川田 「じゃあ誰に振られたんだよ!」
記子 「振られてもないもん。」
川田 「おー、涙目になってやんの。さては図星なんだなー。」
記子 「私、振られてないもん!」
川田 「皆さん聞いてくださーい、ここにいるブツブツは、
    誰かに告って振られましたー!」
記子 「やめてよ、バカ!」

   記子は手に持っていた手さげ袋で、川田を何度も何度もなぐりつける。

記子 「振られてないもん、告ってないもん、不細工じゃないもん、
    ブツブツじゃないもん!」
川田 「なんだよ、よめろよ!」

   川田は殴られた拍子に尻餅をつく。それでも記子は殴る手を止めない。

記子 「川田のバカ!バカ!バカー!」
川田 「(泣き声)うっ、うわぁぁぁん!」

   川田が大声で泣き出す。記子は驚いて、呆然とする。

要子 『あのあと、先生とお母さんにすごく怒られました。
    からかってきたのは川田なのに何で私が怒られるんだろう。
    やっぱり、泣かせたのがいけなかったのかな。
    男の子を殴ったのは生まれて初めてでした。』

   読み終えると、要子は開いたままノートを破り、
   一斗缶の中にくべて燃やす。
   ノートを破るのと同時に、記子はもとの姿に戻る。
   川田は泣きやみ、要子を寂しそうに見つめてから、
   背後の暗闇に消えてゆく。
   要子は再びノートを燃やし始める。
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