未明
シーン3 木下(キノシタ)
   要子は中2と書かれたノートで再び手を止める。
   ノートを開き、ページに目を落とすと、
   要子の背後に制服姿の木下が現れる。

木下 「先生、私、学級委員は中島さんがいいと思いまーす。
    だって、中島さんは優しいし、真面目だし、委員長にぴったりだもん。」

   木下の台詞をきっかけに、記子は14歳の姿になる。

要子 『2004年4月10日。今日はクラスで学級委員選挙がありました。
    みんな面倒臭がってなかなか決まりません。
    そしたら木下さんが私を推薦しました。』

記子 「はい、わかりました。やります。」
木下 「(小声で)引き受けるんだったらさっさと手を上げなさいよ。
    ホント時間のムダ。」
記子 「…ごめんなさい。」
要子 『私は、木下さんが苦手です。』

   要子はノートを数ページめくる。

要子 『2004年6月20日。昼休み、特殊学級に通っている宮さんが
    トイレの個室の前で泣いていました。
    個室の中は水浸しで、便器には宮さんの体操着が詰められていました。
    犯人は木下さんです。その放課後・・・』

木下 「委員長は面倒見がいいんだね。
    宮さんの体操着、洗ってあげたんでしょ?」
記子 「だって、宮さんをあのまま泣かせておくわけにはいかないから。」
木下 「優等生だね。さすが委員長だ。」

   記子は制服のポケットから携帯ストラップをとりだす。

記子 「これ、木下さんの?」
木下 「あー、そうそう。なくしてたんだー。どこで拾ったの?」
記子 「お昼にトイレの前で。」
木下 「へー、そう。ちゃんと手あらってから拾ってくれた?」
記子 「うん。」
木下 「委員長、変な気おこしちゃだめだよ。
    あんたは私のおかげで委員長になれたんだから。」
記子 「好きでやってるんじゃないよ。」
木下 「何言ってんの?あんたみたいな良い格好しいのウザイ優等生、
    委員長でなかったらみんなにいじめられてるよ。
    むしろ感謝してほしいよねー。」
記子 「…。」
木下 「だからね、委員長。余計なこと言ったらだめだよ。」
記子 「一つだけ聞いていい?」
木下 「なぁに?」
記子 「なんで宮さんなの?」
木下 「だって、気持ち悪いじゃん。キョロキョロしたり、いきなり唸りだしたり。
    あーあ、早く学校辞めてくんないかなー。」

要子 『何も言い返せなかった私が、とても悔しい。』

   要子は、読んでいたノートを破り、一斗缶の中にくべて燃やす。
   記子はもとの姿に戻る。
   木下は、軽蔑したように要子を一瞥してから、背後の暗闇に消えてゆく。
   要子はまたのノートを燃やし始める。
< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop