失 楽 園



「……いつ、彼と会ったの?」


彼、とは眞鍋さんのことだろう。

ぎり、と骨が悲鳴をあげるくらいに
きつく、両肩を掴まれた。


「きょ、恭ちゃん……?」

「いつ会ったの。
 僕、そんなこと聞いてない。いつ?」


男は怒っていた。
肌を指すような殺気を感じる。

私は暗闇の中手を探り、
男のシャツを握った。


「あ……か、馨、ちゃんと……
 お買い物、行った時、に……」


痛いくらいの殺気に、
呼吸することすら戸惑われる。

馨、とは眞鍋さんの奥さんだ。

目が見えないせいも有り、
引きこもりがちの私を
積極的に外に連れ出してくれる
優しい女性である。

私が喘ぎ喘ぎ答えると、
重くなった部屋の空気が
すっと軽くなった。


< 160 / 187 >

この作品をシェア

pagetop