誇り高き
『どうして、私との約束を守らないのですか?どんな手を使ってでも生き延びなさいと言ったでしょう』

「母……上……」

『僕は、貴女に生きていてほしい。それが僕の願いなのにどうしてあなたは……』

「………小十郎」

『私との約束が守れないなら、私のところへ来ますか?』

『僕は、ずっと紅河さんを待っています』

『『おいで……』』

これまで、私が殺めた沢山の人達。

私は腕を掴まれてずるずると引きずられていく。

行ってはいけない。

分かっているのに、体に力が入らない。

抵抗できない。

『ほら、もう少し……おいで…』

ねっとりと絡みつく声。

寒い。

悪寒がする。

ここは、来てはいけない死の淵。

「まだ、死ねない……」



『何故?莵毬はもう此方へ来ているのに』

「え………?」

まさか、あいつが死ぬはずがない。

嘘だ。

嘘。

嘘………。

『紅河』

「莵……毬…?」

何故、ここにお前がいる?

『紅河。……行くぞ』

何故、莵毬が私の手を引いている?

何故、深い闇へと誘おうとしている?

「その声で、私の名を呼ぶな」

嘘だ。

莵毬が死ぬはずがない。

絶対にあり得ない。

『………本当に?』

やめて。

母上、出てこないで。

『最強と謳われた貴女でさえ死にかけている。それなのにどうして莵毬が死なないと言えるの?』

どくん。

強く、心臓が脈打つ。

それは、まだ生きている証拠なのだろうか

『俺はもう死んだ。受け入れろ、紅河』

『紅河。貴女の求めた自由はこの先にあるわ。誰も殺さないで、簡単に手に入る自由が』

誰も殺さないで、簡単に手に入る、自由。
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