誇り高き

時は僅かに遡る。

屯所に会津からの密書が届いた頃。

京の街ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

「とっとと金をだせ。店を潰されたいか」

「それだけはっ。それだけは勘弁しておくれやす」

必死に頭を下げる呉服屋の女将。

普段は賑わいを見せている店内も、今はしんと静まり返っている。

「なら、早く金を出せ」

「芹沢先生のご命令だぞっ」

「早くしろっ」

そして、金を出せと脅しているのは不逞浪士ではなかった。

本来ならば、其れを取り締まり京の街を守るはずの新撰組、芹沢鴨とその取り巻き。

彼等が女将を脅しているのだ。

「ええい。早くしろと言っているだろう。何をしている‼︎」

かっとなった一人が遂に女将に刀を向けた

「………っ」

最早、女将は腰が抜けて動けない。

と、其処へ______。

「母ちゃんをいじめるなっっ」

一人の子が飛び込んできた。

「市次郎っ」

女将が叫ぶ。

市次郎____女将の息子は勇敢にも手に箒を持ち、芹沢の前に立ちはだかった。

「_____ふんっ。そんな棒切れ一つで何が出来る」

芹沢は鉄扇を引き抜くと、箒を払い除けた

バキッ

箒が真っ二つに折れた。

芹沢が少年を蹴り飛ばす。

「市次郎っ。……っあんた、うちの市次郎に何してくれるんやっ!」

きっ、と女将が芹沢を睨む。

「躾だ」

「な、なんやて⁈」

「もういい。切り捨てろ」

芹沢は五月蝿そうに顔を顰めると、やれと顎をしゃっくった。

抜かれた刀がキラリと光る。

はっと息を飲む間に刀が振り下ろされた。

女将はぎゅっと目を瞑る。

だが、女将が斬られる事は無かった。

刀が当たる寸前で、女将の体が横に吹き飛ぶ。

「何⁈」

一人の男が、女将を横抱きにして抱えていた。

真っ白な髪から覗く端整な顔。

その瞳は鋭く芹沢を見据えていた。

「芹沢先生。何の真似です」

其処に遅れて沖田と永倉が駆けつけてくる

「貴様こそ何のつもりだ。貴様の分際で儂を邪魔するか」

紅河の瞳がさらに鋭さを増した

「ご自分の行動に自覚が無い様ですね」

其れだけ言うと紅河は、芹沢に背を向ける

女将を下ろして、子供の様子を見る。

蹴られ腹は真っ赤に腫れて痛々しい。

にも関わらず、その少年は泣かなかった。

「……悪かったな」

くしゃりと少年の頭を撫でる。

素早く手当をした。

「お兄ちゃん。……ありがとう」

「礼は要らない」

私は貴方を傷付けた人の下に着いているのだから。

背後では、沖田と永倉が芹沢を説得している。

「_____仕方が無い。此奴らに免じて許してやる」

あくまでも悪いのはそちらの方だと言う態度。

芹沢一派は荒々しく店を出て行った。

「申し訳ありません」

永倉と沖田と紅河が深々と頭を下げる。

「あんたらも早く出てって下さいっ」

激しい剣幕で女将が言い募る。

「もう、二度とうちの店に来んといて下さい!!」

三人は深々と頭を下げると店を出て行った




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