神様の憂鬱
「あの人が悪いわけではなかったのに。

誰よりも、あの人自信が一番ショックだったんです。

それなのに、わたしはあの人にかけてあげる言葉を間違えた。

それも――

最悪な方向に」

ボクは、ただ彼女を見つめていた。

濡れた瞳に、ボクの顔がうつっている。

まるで、天歌が時折見せる、自愛に満ちたような表情をしていた。

「わたし――

あの人に幸せにしてもらおうとばかり思っていた。

自分が幸せにしてもらうことばかり考えていた。

だから、あの人が絶望に打ちひしがれていたのに、

わたしにはそれがわかっていたのに、わたしはそのまま彼を捨てた。

あの人と一緒にいても、もう幸せにはなれないような気がしたから」

紗良奈の口から出る言葉は、どこかに吸い込まれて消えていくようだった。

長い間彼女の身体の中で熟成を重ねていたのだろう。

とても重く、暗い。

ボクだけに向けられた懺悔(ざんげ)そのもの。

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