エイスケも何も言えないと言う様子だった。
「俺にはイジメられる怖さとかわかんないけど、奪われることの辛さはすごくわかる。他人の勝手な行動で大事なもんなくされて……心臓えぐられるよ……」
うつむきながら少し泣いて、こらえた。
「シンジ……俺は自分のものを奪われてすげぇ悔しかった。親がいなくなるってのは、今の俺には考えらんねぇけど、足奪われるよりも何にも代えられない親が奪われる方がきっと悲しい。悔しさよりも悲しいと思う。」
「あぁ」
俺は頷くしか出来なかった。言葉にできないくらい悲しくなったからだ。
エイスケには俺の言いたいことが伝わったように思えた。
「シンジが廊下で泣いてるのを見た時、なんでって思った。その時の俺には足がなくなったショックが大きすぎて、に対して、足があるくせになんで泣いてんだよとか思っていた。けど、俺が考えてたほど簡単な話じゃなかったし、俺がそんな風に言ってもいい事じゃ無かった……すげぇ無情なこと思ってもてごめんな」
エイスケは俺の方を向いて頭を下げた。
突然のエイスケの行動に驚いた。しかし、俺の中にあった疑問もなくなった。
「正直に言ってくれてありがとな。俺も気にしてないから。なんで話しかけてきたのか疑問だったんだけど、そう言うことだったんだな。
俺もぶっちゃけエイスケが話始めたとき、親が死んだわけでもないのにとか、足ぐらいなくてもいいのにとか、勝手な事思ってからよ……俺こそごめん」
俺はエイスケに頭を下げる。
「気にすんな。お互い様だな」
エイスケは少し笑っていった。
俺は複雑な思いだった。


「エイスケ。やっぱさ、俺ら辛いことありすぎだよな。そろそろ幸せなことあってもいいのにな」
俺はポツリと言ってみた。
単純に幸せになりたいと思った。
「だよなぁ……ってか、俺は正直、あいつらをみくだしたい」
「あいつらって先輩か?」
「あぁ。どうやら俺の中の獣が起きたらしい。矢杉達に復讐してやりたい。俺の足返せっつって返って来るようなもんじゃねえけど、同じ目に会ってみろって思うんだよ」
エイスケの顔つきは、今までになく強ばっていて、怒りがにじみ出ている。
でも、それは俺も同じだった。
「すげぇわかる。両親を死に追いやったポイ捨て野郎を絶対に見つけ出したい。そのためなら犯罪だって侵していい」
本気だった。
俺はそいつを今すぐにでも殺したい。
はじめはそんなこと思うだけで惨めだとか思っていたが、今は違う。このままでは俺の腹の虫はおさまらない。
「決まりだな」
「え?」
「二人でこれからやろうぜ。復讐劇」
「エイスケ本気かよ?」
「当たり前だろ。本気だ」
冗談なのかと思ってしまう。と言うより、まだ思いたいのだ。異常者になると思うと。
「シンジ決めろよ。お前の親の敵を取るんだろ?」
エイスケがそう言った時、俺の中で何かが変わった。
それは間違いなく今までの俺の弱さを麻痺させるようなものだ。
「もちろん、俺もやるぜ。復讐劇」
「だよな!」
俺らは拳をぶつけて意気込んだ。
「シンジ楽しそうだな」
「お前もな」
ニヤリと笑って見せた。
俺は立ち上がり伸びをした。
久々にスッキリしたような気分だ。
俺らは夜の屋上を後にした。
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