CHECKMATE
「あぁ~あ、一生懸命頑張ったんだけどなぁ……」
「フッ、そんなに簡単に乗れるようになるかよ」
「だってぇ……」
午後も乗馬を楽しんだ2人。
夏桜はマンツーマンで猛特訓したのだが、何となく騎乗ポジションをキープするくらいで、結局、一人で手綱をコントロールすることは出来なかった。
仕上げは、乗馬クラブの外へホーストレッキングするのだが、夏桜はプクッと膨れっ面で拗ねている。
「ほら、乗らないなら1人で行って来るぞ?」
「えっ?ダメダメダメダメッ!乗るっ!乗ります!乗らせて下さいっ!!」
すっかり乗馬の虜になった夏桜。
意気消沈するも、一瞬でパッと明るい表情に。
スノーの手綱を手にしている千葉に駆け寄り、スノーの顔を一撫で。
「ちょっと重いかもしれないけど、宜しくね?」
長い睫毛のスノーに向かい、夏桜はウインクした。
そして、まだ少しぎこちない手つきでスノーに跨ると、夏桜を支える形で千葉も跨った。
「俺に背を預ける感じに寄りかかれ」
「…………はい」
耳元に囁くと、夏桜は渋々返事をした。
普段見ることが出来ない拗ねた表情の夏桜が可愛く思え、無意識に頬が緩み出す。
そんな表情を悟られまいと、千葉はスノーの腹を一蹴り。
「ハッ」
慣れた手つきで手綱をコントロールし、2人を乗せたスノーは馬場の外へと歩き出した。
視界に映る骨ばった長い指先。
耳元に届く息遣い。
時折、囁き掛けられる低めの声音。
背中に感じる彼の気配。
そして、長い腕の中に捕らわれた無力な自分。
そのどれもが、胸を高鳴らせる要因で。
決して自分自身を見失うまいと思えば思うほど、胸の鼓動は早まるばかり。
何故こんなにも、彼の事が気になるのか……。
恋愛経験の無い夏桜にはそれが何なのか、全く分からなかった。