CHECKMATE


17時15分。
エトワールホテルのエントランスに1台の車が横付けされた。

すぐさまドアマンが優雅な所作で後部座席のドアを開けると、ダークグレーの洗練されたスーツを身に纏った男が姿を現した。
彼こそが、今回の誘導役・水島である。

何処で誰が見ているのか解らない状況の中、千葉の判断で念には念を入れて考えた結果である。
神保の運転する車で登場した水島は、誰が見てもインテリ系の若手実業家。

クールな目元とスラリとした細身の身体は、どこからどう見ても厳ついイメージがある刑事には見えない。
水島は、女との待ち合わせであるロビーラウンジへと足を進めた。

「いらっしゃいませ」

水島を接客する男こそ、スタッフになりすました倉賀野である。

席へと案内し、おしぼりと冷水をテーブルに静かに置く。
その一連の流れの中で、水島にそっと耳打ちする。

「シキテン(見張り)ゼロ」

すると、水島は倉賀野に視線を向け、

「珈琲を1つ」
「珈琲でございますね?少々お待ち下さいませ」

オーダーを繰り返す倉賀野に、小さく頷いて合図をした。
水島は珈琲を口にしながら、自分に課せられた任の重さに、未だかつてないほどに緊張していた。

17時35分。
黒いロングドレスの上にコートを羽織った江藤美穂が、ラウンジに姿を現した。

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