夢のような恋だった
「美味しかったね」
「うん」
「あ、ここがアパートなの。送ってくれてありがとう」
雑談しているだけで、家までたどり着いてしまった。
どうしよう。
中に入らない? とか、誘うのはいきなりすぎる?
「結構近いんだな。でも出版社は実家からの方が近いんじゃないの?」
「え? あ、うん。でも、そっちは担当さんが近くまで来てくれるから」
「ふうん。……俺、まだ新人で大したこと出来ないけど、せっかく一緒の仕事できるんだから頑張るよ」
「うん」
「よろしく」
すっと手を差し出された。
大きな手のひら。
昔何度も繋いだゴツゴツした指。
「……私も頑張る。ありがとう」
手を伸ばして握手をした。
智くんがちゃんと私を見て、手を伸ばして、話をしてくれる。
今はこれで十分かもしれない、と思った。
最後までシナリオを書いて、一緒の仕事を形にして。
そうしたら伝えよう。
もう一度、私と付き合ってくださいって。
「じゃあ、帰るな」
「あ……」
緩く笑うと、彼は一瞬で身を翻した。