夢のような恋だった

やっぱり、待って。

遠ざかる背中に、そう小さく呟いてしまう。
でもその声は、智くんには届かなかった。

あっという間に小さくなる影。
時折、振り返っては無邪気に手を振られて、私も振り返すほか無くなってしまう。


「……行っちゃった」


私は苦笑して携帯を取り出した。

智くんの番号とメールアドレス。
聞けなかったけれど、昔のものならそのままメモリーに入っている。

もし、変わっていないのなら。

願いを込めてメールを書く。


【今日はありがとう】


別れてから始めて送信するメールは、ちゃんと届いたのかエラー通知は来ない。
階段を上って部屋にはいるとすぐ、着信音が鳴った。


【こちらこそ】


それを見て心底ホッとした。

アドレス、変わってなかった。
ずっと、完全に切れてなんていなかったんだって思って。


「良かったぁ」


安心と同時に涙が一粒こぼれた。
智くんは、本当に私を泣かせるのが上手だ。

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