夢のような恋だった
「あ、葉山さん、知ってる?」
帰りがけ、話しかけてきた中牧さんの顔が歪んでみえる。
彼は笑っているつもりなのだろうけど、眼がすわっている感じ。
「茂、怪我したんだって」
「え? 知りません。どうして?」
「草太に殴られて、よろけた時に側溝に足を引っ掛けて捻挫だって。君とのことで揉めてたらしいよ、二人。
……モテる女は辛いねぇ」
ははは、と笑って中牧さんが背中を向ける。
胸が痛い。
全身が、言葉の刃に切り刻まれるみたい。
無性に智くんに会いたいと思った。
感情を隠すすべを知らない智くんに会いたい。
彼がぶつけてくれるものは、例え負の感情であってもこんなに苦しくないのに。
智くんの近くでなら安心して息ができる。