夢のような恋だった

 車で二十分かからないくらいで、実家にたどり着く。大して遠くもない距離での一人暮らしを許してくれて、就職するまでは家賃の援助もしてくれた両親は、やはり私に甘いのかもしれない。


「おかえりなさい」


玄関先まで迎えに来たお母さんは、私の汚れた服や擦りむいた手やひざを見て眉を寄せる。


「……無事?」

「うん。お父さんが助けてくれた」

「そう。ならいいわ。こっちいらっしゃい、手当してあげる」


中に入ると、テーブルには夕食が出来上がっていた。
あの時間ですぐ来れたところを見ると、お父さんとサイちゃんは家に居たのだろう。


お母さんはお父さんとサイちゃんにご飯を食べてるように言うと、私を和室へ引っ張ってきてふすまを閉めた。


「怪我したところ見せなさい」

「うん。でも擦りむいただけだよ」

「そのくらいが一番痛いでしょう」


足と手のひらに消毒をしてもらう。
お母さんは多くを問いただすでもなく、丁寧に傷口を検め、絆創膏を付けた。

目を伏せたその姿は、私に『契約恋愛してたの』と語った時を思い出させた。

しっかり者で仕事もできる。
そんなお母さんだって誰かに頼りたくなる時があったんだろう。

パパという支えを失って、でも守らなければならない私という存在があって。
お母さんだって必死だったんだ。


「……お母さん」

「なに?」

「私、今ならお母さんが寂しくて契約恋愛した気持ち、ちょっと分かる」

「そう」

お母さんは目を伏せたままだ。
声を荒立てることもなく、私の言葉をそのまま受け止める。

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