夢のような恋だった
エピローグ


 それから更にふた月が過ぎ、私達は日常を忙しく生きている。

朝日が差し込むリビング。テーブルに並べられていくのは朝食。
向かい合うその席に、彼の姿はない。

私は、ニュースを告げるテレビを話し相手に朝食に手を付けた。

今日は日曜日。
シフト勤務のアルバイトの方はお休みだ。

今は絵本雑誌での連載をもらっている。
先日、絵コンテのコピーを送ったばかりなので仕事的にも余裕がある。

こんな日は珍しいんだけど、運悪く一人。

仕方ないから片付けでもしようか。


茶碗を台所に下げて洗っていると、玄関の方が騒がしい。
もしかして、と期待して駆け寄ると彼が入ってきた。


「あーただいまぁ」

「おかえりなさい。終わったの?」

「なんとか。あー目がシパシパする」


智はプログラミングにもすっかり慣れて、締め切り前になるとこうやって徹夜と泊まり込みの日々が続く。
会うのは実に三日ぶりだ。


「ゴメン、朝食片付けちゃった」

「いや、食いもんはいいや。夜中珈琲飲んでて腹いっぱい」

「そっか。じゃあ寝る? お風呂入る?」

「いや、それより先に」


荷物を受け取ってリビングに行こうとすると、彼が後ろから抱きついてくる。


「んー、紗優の匂い」

「智?」

「三日ぶりだ-。会いたかった」


そのまま髪に落とされるキス。
私だって会いたかったよ。

ぎゅっと抱きつくと彼からは汗の匂い。
お仕事、いっぱい頑張ってたんだね。


「汗臭いよ?」


見上げると、上から今度は唇にキスが落ちてきた。


「いや?」

「ううん」


彼の瞳の中に私、私の瞳の中に彼。
心の中から、ちょっとずつ溜まっていた寂しさや疲れが消えていくのを感じる。

キスがだんだん深くなって、彼の香りが強くなる。


「……やっぱ風呂入ってくる。紗優、今日休み?」

「うん」

「じゃあ後でゆっくりな」


何をよ、とちょっと恥ずかしくなりつつ、内心は嬉しかったり。

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