夢のような恋だった

「智」

「言い慣れるまでずっと言ってて」


智くんの足が加速する。
私をおんぶしているのに駆け足になった。


「危ないよ、智くん」

「また戻った。もう一回」

「や、もう」


だって。ずーっとずーっと智くんって呼んできたのに。
今更変えろだなんて難しいってば。


「……智のバカ」


小さく呟いたら、智くんはまた加速した。

バカって言ったのに、全然しょげたりしてないみたい。

呼吸、苦しそうになっているのに。
私を背負ったまま、こんなに動けるんだね。

背中もこんなに大きくて、凄く逞しくなった。


一番最初の智くんとの記憶は、保育園の時。
泣くのを我慢していた私に、『泣いてよ』と言ってくれた。

あの日からずっと、智くんは私の心の真ん中にいた。

辛いことがあっても、うまくいかない時でも。

あの『泣いてよ』がずっと私の心をほぐしてくれてた。



あなたは私の、運命の人だ。


「……だいすき」


ぎゅっと背中にしがみついたら、智くんの動きが止まった。


「あれ? どうしたの、さと……」

「ちょ、ちょっと反則」


あまりにもゼイゼイ息を切らせているので、私はそのまま背中から降りる。


「大丈夫? 智」

「ただでさえ心拍数早いのに。……勘弁して」


ぎゅっと抱きしめられたら、彼の汗が額に落ちてきた。
心臓はこうして傍にいるだけで分かるくらいドクンドクンと早鐘を打っている。


「だって本当だもん」

「俺だって……」


耳に響く心臓の音は、私と彼、どっちのものだから分からないくらいだ。
目をつぶって声を出したら、彼からも同じ言葉が重なった。


「……だいすき」


ほら。私達はやっぱりどこかでつながっている。

ねぇ、これから先も。
ずっとずっと一緒にいようね。



< 249 / 306 >

この作品をシェア

pagetop