夢のような恋だった



結局、改まって『ありがとう』なんてことは言えないまま、部屋に追い立てられて今に至る俺。
大半のものが無くなった部屋に、布団をしいて寝っ転がる。

飲んだのはビールだけだったけど、結構飲み過ぎたかもしれない。
視界がクルクルと回っていて、気分だけはやたらに高揚している。

紗優は、今頃何してんのかな。
おじさんがクダ巻いてそうだよな。


いよいよ、明日。
お揃いの結婚指輪は鞄の中で眠っている。

ガキの頃からずっと好きで好きで忘れられなかった紗優を、ようやく名実ともに自分のものだと言える。


「……天使みたいにみえたんだよなぁ」


思い出すと顔が笑ってしまう。
いつもニコニコしていた紗優が泣いたあの時が、俺の胸にはずっと焼き付いている。


一緒にいるから。
傍にいるから。

だからいつでも泣いていいよ。
紗優を一人になんてしないから。


朦朧とした意識の中で、電話が鳴ったような気がした。

電話を取るなんて動作は習慣化しすぎていて意識しなくても出来る。

頭はフワフワとした夢の中で、俺は夢のような恋を反芻していた。



「……紗優は……俺の天使だし」



『え? ええっ? どうしたの、智』


リアルに耳をつんざいた電話越しの声に、俺は我に返り、恥ずかしさのあまり声にならない悲鳴をあげた。



【Fin.】
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