夢のような恋だった

「さ、行こう」


差し出された手に気持ちが揺らぐ。


草太くんは強引だ。
それは短所でもあるけど長所でもある。

ズブズブと深い沼に沈んでいきそうな私を、いともたやすく引き上げてくれる。


「草太くん」

「二十四歳、おめでとう。紗優」

「……ありがとう」


手を取った途端にぐいと引っ張られ、小さなリップ音とともに唇に息がかかる。
草太くんに対して作っていた壁は簡単に崩された。

『勇気』や『希望』や『愛』だけで生きられなくなったのは私が大人になったからだろうか。

お母さんもお父さんもそうやって生きてきたなら、私も『不安』や『絶望』や『裏切り』を受け入れていかなきゃいけないの?


「もう泣かさないから」


一度浮気する人は何度でもする。
そう思うけれど、こんな草太くんに救われている自分も確かにいる。

信じてみようか。
もう一度だけ。


「……もう浮気しない?」

声に出したら予想外に涙声になっていて恥ずかしさに目を伏せる。
草太くんは満足そうに笑うと私にもう一度キスをした。

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